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2020年02月10日

映画解説 vol.4

映画『文楽に生きる 吉田玉男』
歴史としての映画の価値

 

三浦 裕子 (武蔵野大学文学部教授、
同大学能楽資料センター長)

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 初代吉田玉男(1919~2006年)は20世紀最高の名人と称賛された立役(たちやく)の人形遣いである。1977年に重要無形文化財「人形浄瑠璃文楽」(各個指定)保持者(いわゆる人間国宝)となり、2000年に文化功労者の顕彰を受けた。本映画は玉男の芸と人となりを描きつつ、文楽という伝統芸能を紹介するものである。

 近松門左衛門作〈曽根崎心中〉は竹本義太夫の語りで1703年(元禄16年)に初演された。以後、長らく上演されず、歌舞伎で復活されたのが250年後の1953年(昭和28年)。その2年後の1955年に文楽が復活した。このときに徳兵衛を扱ったのが玉男で、生涯で1136回の記録を達成したという。

 本映画は〈曽根崎心中〉の心中の場から始まる。徳兵衛が玉男の当たり役であることからの選曲であろう。続いて玉男自身が人形遣いの技法について説明する画面となる。長く細い指がいかにも器用そうに見える。と同時に左遣いが弟子の吉田玉女であるのも印象的である。

 人形の首(かしら)、鬘(かつら)、衣裳と、文楽には道具立てが多い。その制作過程が映し出され、玉男が弟子に稽古をつける様子が描かれ、そして、人形や文楽の歴史が語られる。

 上記のように、本映画の前半は玉男の師匠としての側面に焦点を当てている。対して後半は、朝日座において〈ひらかな盛衰記〉の松右衛門を扱う実演家の部分を取り上げている。そこでの玉男は人形遣いの芸の基本を「人形に魂を入れ人形と一体化すること」と説く。役柄の性格や心情を追究した点に玉男の近代的な芸質が認められよう。

 本映画は朝日座の楽屋といった珍しい場面も撮影しており、今まで紹介してきた映画と同様、その記録性と芸術性を思う。加えて歴史性というものを感じる。というのも、江戸時代に始まる文楽には約400年の歴史がある。本映画が制作されて約40年、それは文楽の歴史の10分の1に相当する。その間、朝日座が1984年に閉鎖され、玉女が二代目玉男を2015年に襲名した。これらは文楽史上の重要な一齣である。そのような40年間の流れを実感させる点、本映画も文楽の歴史そのものと言えるのではないだろうか。ポーラ伝統文化振興財団が伝統文化記録映画の制作を開始したのが1980年。1年後に文楽を撮影した点から言っても、貴重な作品である。

(文中、敬称略)

上:〈菅原伝授手習鑑〉の松王丸を遣う初代吉田玉男 
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  2126_001記録映画「文楽に生きる 吉田玉男」(1981年制作/36分)
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 ※三浦先生による伝統芸能分野の映画解説は今回にて終了となります。
  次回は総集編をお届けいたします。

 ※執筆者 三浦裕子先生(武蔵野大学文学部教授、同大学能楽資料センター長)
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