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お知らせ

2021年09月02日

 

ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを目的として、顕彰を行ってまいりました。 昨年40回を迎えた「伝統文化ポーラ賞」。この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。

第38回 伝統文化ポーラ賞 地域賞

福野夜高保存会「夜高行燈と夜高祭の保存・継承」

川﨑瑞穂(博士/東京電機大学大学院ほか講師)

 山車(だし)や曳山(ひきやま)などと呼ばれる出し物の曳行(えいこう)や、仮装した人びとによる華やかな行列など、日本各地の祭礼にて見ることができる「練物」(ねりもの)を、この分野の研究では「風流」(ふりゅう)と呼ぶことがあります。本来は趣向をこらした装飾や仮装などを意味する言葉でしたが、次第に祭礼に登場する各種の練物をも意味するようになりました。地域に伝わる多彩な「盆踊り」など、様々な形態の芸能がこのジャンルに含まれます。哲学者の九鬼周造(1888~1941)は「風流に関する一考察」(1937年)という論文の中で、風流(ふうりゅう)の特徴を「世俗的価値の破壊または逆転」であるとまとめています。まさに常識を覆すような驚くべき意匠/衣装こそ、風流(ふりゅう)系の芸能の醍醐味であるともいえるでしょう。

福野夜高祭の行燈福野夜高祭の行燈

 各地に伝わる山・鉾・屋台行事を観に行けば、出し物を中心に人びとが参集するエネルギーをひしひしと感じることができるでしょう。富山県南砺市で毎年5月に行われる福野夜高祭はその一例であり、曳山や庵屋台(いおりやたい)、そして行燈(あんどん)といった数々の出し物が登場します。とりわけ、「夜高行燈」(よたかあんどん)という高い行燈の上で、まるでケンカをするかのように人びとが行燈を壊しあうという「けんか行燈」によって知られており、豪快な駆け引きが各地の人々を魅了してきました。夜高太鼓の音に彩られながらドラマティックに崩れ行く行燈。とある南砺の町の片隅がひととき世界の中心となるような、日常とかけ離れた異質なまでの時空間がそこに広がります。

引き合い(けんか行燈)
引き合い(けんか行燈)

 この祭礼は、神明社の祭典(春祭り)に付随する行事であり、5月1~2日が前夜祭、3日には曳山・神輿の巡行があります。行燈は12月頃から構想を練りはじめ、2月中旬、雪解けの季節から造りはじめます。夜高行燈は全てこの祭礼に参加する人びと自らの手で作り出されます。令和に改元後最初の祭礼では、16メートルもの巨大な行燈を出しました。街一体となってつくりあげるのがこの祭礼の魅力ともいえるでしょう。

行燈の意匠(七津屋)行燈の意匠(七津屋)

 二ヶ月半かけてつくったものを一晩で壊してしまう「引き合い」が祭礼のクライマックス。「いさぎよさ」こそが醍醐味であり、苦労して作ったものを自分たちで壊すことが一つの「いきがい」にもなっている、そう伝承者たちは熱く語ります。「蕩尽」、すなわち作り出すことだけではなく消し去ることもまた文化の重要な一側面であることを、この祭礼は言外に物語ります。

行燈の曳行(七津屋)
行燈の巡行(七津屋)

 伝統文化ポーラ賞を受賞した福野夜高保存会は、現在でも受賞時と変わらず、「夜高行燈と夜高祭の保存・継承」を主導し、地域の振興を支えています。

 注:来年の祭礼の開催等につきましては、事前にご確認ください。

 


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