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お知らせ

2021年04月25日

 

ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを目的として、顕彰を行ってまいりました。 昨年40回を迎えた「伝統文化ポーラ賞」。この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。

第37回 伝統文化ポーラ賞 地域賞

鶴見田祭り保存会「鶴見の田祭りの保存・伝承」

川﨑瑞穂(博士・東京電機大学大学院 ほか講師)

 受け継がれる芸能もあれば、失われゆく芸能もあります。歴史上、どれだけの芸能が生まれては消えていったことでしょう。私たちが接することができるものはそのうちのいくつかに過ぎません。過去の芸能のありさまがどのようなものであったか、あるいは現在私たちの身の回りに受け継がれる芸能がどのように発生したのかを考える、そういった「たて」(歴史)の学問が「芸能史研究」です。無論、同じ川に二度入ることができないのと同様、芸能は「いまここ」で生成変化する「なまもの」ですから、「よこ」、すなわち現在という断面から観察することも忘れてはなりません。「たて」と「よこ」を紡ぐ視点が、時には失われた芸能を「復活」させることもあります。神奈川県横浜市鶴見区に伝わる「鶴見の田祭り」はその好例でしょう。

餅の付いた接骨木(にわとこ)で農耕の所作を行う餅の付いた接骨木(にわとこ)で農耕の所作を行う

 鶴見の田祭りは、毎年4月29日のみどりの日に斎行されます。当日は、鶴見神社の境内に設えられた舞台(もがり)を中心に、農耕の所作を模擬演技していきます。田祭りは他の地域では「田遊び」などとも呼ばれ、豊作を予め祝う「予祝」(よしゅく)の意味が込められています。鶴見の田祭りは鎌倉時代には行われていたと考えられる貴重な芸能ですが、明治4年(1871)を最後に伝承が途絶えました。しかし、芸能に関わる「たて」の史料の掘り起こし、「板橋の田遊び」(東京都)など類似した「よこ」の芸能の観察といった、地域の人々、そして研究者の懸命な努力により、昭和62年(1987)に見事復活を果たしたのでした。このように、「たて」と「よこ」の調査・研究は、時には芸能を生き返らせることもあるのです。

豊年祝(ほうねんいわい)に登場する神馬豊年祝(ほうねんいわい)に登場する神馬

 麗らかな春の日の午後に行われる田祭りも、後半には夜の帳が下り、幻想的な雰囲気の中で粛々と行事が進みます。暗闇に包まれた舞台に登場するのは、牛や馬、羊に扮した人々。かつては田んぼが広がっていたという鶴見ですが、現在ではビルが並ぶ都市の風景が広がります。ビルの谷間に突如動物たちが登場し、所狭しと舞い躍る様は実に壮観なものです。

豊年祝に登場する豊年羊豊年祝に登場する豊年羊

 その後、舞台の上で行われるのが「直会」(なおらい)。御膳に載せられた食べ物を一緒に食べること、それはただの食事ではありません。「ハレ」、すなわち非日常の場たる祭礼の時空間から、「ケ」、すなわち日常に戻ってくるための儀礼であるとも考えられています。

直会の風景直会の風景

 伝統文化ポーラ賞を受賞した鶴見田祭り保存会は、現在でも受賞時と変わらず、「鶴見の田祭りの保存・伝承」を主導し、地域の振興を支えています。

*令和3年4月29日(木)昭和の日
再興第34回「鶴見の田祭り」は無観客での斎行となります。

鶴見神社HP

https://tsurumijinja.jp/tamatsuri/

 


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