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2020年06月25日



映画解説 vol.25

映画『うつわに託す 大西勲の髹漆』


託し託される「使命」

 

中畑 邦夫 (博士 哲学)

◇木目を慎重に見極めながら作業する大西氏
木目を慎重に見極めながら作業する大西氏


 お洒落な人。今回の映画で私が受けた、漆芸家・大西勲氏の第一印象である。BGMとして流れるジャズの調べも良く似合っている。師である赤地友哉氏から贈られたという「素朴に、しかし粋であれ」ということばは髹漆(きゅうしつ)の技術においてのみならず、大西氏のライフスタイルの中でも生きているようである。
大西氏は昭和19年、北九州の炭鉱の町に大工職人の子として生まれた。幼い頃から父親が仕事で使う木材と工具で模型を作っていたそうである。また、父親に叱られるとボタ山に登って月を眺めていたという。木への愛着は大西氏の幼い頃のこのような生活の中で芽生えたものかもしれない。また、今回その制作過程が収められている髹漆曲輪造盤「蒼い月夜」はじめとして大西氏の作品に月へのこだわりが見られるのは、幼いころにボタ山から眺めた月が大西氏のいわば原風景になっているからなのかもしれない。
大西氏は30歳の時に赤地氏に師事する。この頃から、大西氏は漆芸の技術を守り、向上させ、後世に伝えるという「使命」を与えられたわけである。しかし、大西氏に託された「使命」とはそれだけではない。
ところで「使命」とは、ドイツ語ではBestimmung(ベシュティムング)という。ドイツの哲学者ヘーゲル(1770~1831年)はこの言葉に自身の哲学の中で重要な役割を与えた。哲学の専門用語として日本語では「規定」と訳されるこの言葉は、あるものが「なんであるか」を示すと同時に、それが「どうあるべきか」をも示す。そして規定は、他のものとのかかわりにおいて、より深まり、より明確になってゆく。つまり、他のものとのかかわりにおいて、それが「なんであるか」ということ、「どうあるべきか」ということが、より深まり明確になってゆく。
大西氏もまた、さまざまな「かかわり」の中で、自身の「規定=使命」を深められてきたことであろう。師である赤地氏とのかかわり、漆芸の技術を将来担ってゆく若者たちとのかかわり、木への愛着や月という原風景が芽生えた幼き頃の自分とのかかわり。そしてもちろん、木や漆といった自然とのかかわり。そういったさまざまなかかわりの中で与えられ大西氏の中で深まっていった「規定=使命」、つまり人間としての自身のあり方を、大西氏は作品に託し続けてきたのである。
ところで、私がこの文章を書いているのは令和2年6月。少しずつ日常が戻ってきているとはいえ、それでも世の中は新型コロナウィルス感染症による不安と混乱の只中にある。いわゆるコロナ禍によって、世の中は大きく変わったし、これからも変わってゆくのであろう。しかし、世の中がどう変わってゆこうと、自分自身の変わらない「使命」とはなにか、このような状況だからこそ、そういったことについて考えたい、大西氏が託し託されてきた使命の「ブレのなさ」を観て、私はそんなことを想った。

ところで先月、YOUTUBEにポーラ伝統文化振興財団のチャンネルが開設された(https://www.youtube.com/channel/UCqoBFBt6U8EV1Egj-PH-LbQ/)。伝統文化を紹介する興味深い動画を視聴することができ、私が前回ご紹介した映画『蒔絵 室瀬和美 時を超える美』も視聴することができる。ぜひとも伝統文化の世界を身近に感じていただき、お楽しみいただきたい。

◇まるで人間の血管のようにも見える美しい木目
まるで人間の血管のようにも見える美しい木目
師・赤地友哉氏と若き日の大西氏
師・赤地友哉氏と若き日の大西氏
若者たちを親身に指導する大西氏
若者たちを親身に指導する大西氏
ろうそくの灯のもとで作業する大西氏
ろうそくの灯のもとで作業する大西氏
試行錯誤の末、大西氏は月の色を決めた。
試行錯誤の末、大西氏は月の色を決めた。
 


  ※「うつわに託す 大西勲の髹漆」(2009年制作/35分)
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