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2019年07月25日



映画解説 vol.15

映画『加賀象嵌 中川衛 美の世界―新たな伝統を創る―』

伝統、あるいは、リズムの融合

 

中畑 邦夫 (博士 哲学)

001

 なんとも心地よい、軽快なリズムが響く。加賀象嵌(かがぞうがん)の第一人者、中川衛氏が鏨(たがね)を鎚(つち)で叩いている。象嵌、文字通り、ある象(かたち)に加工された金属を別の金属に嵌めて作品を創る技術である。この映画を観る者は、あたかも冒頭に響き渡るリズムに誘われるように、二つの「旅」に引き込まれる。一つは、中川氏の故郷であり加賀象嵌のルーツである金沢から、象嵌のツールであるトルコ、さらには象嵌の「未来」へとつながるアメリカへ、という「旅」。もう一つは、氏が象嵌朧銀花器「夕映のイスタンブール」を完成させるまでの「旅」である。さらに二つの旅は、伝統の継承という一つの「旅」へと収束してゆく。

  002(仮)

 あらゆるものはリズムをもっている。生活のリズム、文章のリズム、四季のリズム……。そして、異なるリズムは融合する。二人の人が異なるリズムで手を叩いていても、やがては重なるように。中川氏は、イスタンブールの街の昼から夜へという変化のリズムを、みずからの作品の中に表現する。もちろん、簡単な作業ではない。何度も何度も、鎚を打つ手が止まる。しかしそのたびに、さまざまな工夫によって、氏は新たなリズムを刻み始める。完成した作品は現代的な空間のアクセントとなり、その空間のリズムを変える。

 中川氏は生まれ故郷の金沢で、金沢象嵌のもつ独特のリズムに引き込まれ、高橋介州氏の弟子となる。師と弟子のリズムは融合し、中川氏は師から受け継いだ道具を使って独自のリズムを刻み続けてきた。自分の作品が見た人の癒しとなったり創造性を刺激したりするようなものであって欲しいと、中川氏は語る。また、伝統とは「新しさ」を求めることであり、それが未来に残って伝統となる、中川氏はそう考える。古いもののもつリズムと新しいリズムが融合することによって伝統は続いてゆくのである。中川氏の指導を受ける若者たちは、そのリズムに耳を傾け、自分たちの中で新たなリズムを創造してゆく。そして中川氏もまた、若者たちの想いやアイディアを取り入れることによって、自分の中に常に新たなリズムを創造してゆこうとする。こうして、リズムの融合というかたちで、伝統は続いてゆくのである。

 この映画を通じて中川氏に触れることによって、皆さんの中にはどのようなリズムが生まれるであろうか。

 

 

 

 

003(仮)
004(鳥)

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※写真は、すべてポーラ伝統文化振興財団による撮影

 


  ※記録映画「加賀象嵌 中川衛 美の世界 ―新たな伝統を創る―」(2011年制作/39分)
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