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2018年11月25日



映画解説 vol.10

映画『土と炎と人とー清水卯一のわざー』

 

佐藤 典克

(公益社団法人 日本工芸会正会員 日本陶芸美術協会 会員)

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 京都五条にある陶器の卸問屋に生まれた清水卯一。幼いころから焼き物づくりへの関心が人一倍強く、それは、毎日学校に行くふりをしては工房へ通い、轆轤技を学び仕事を手伝うほどであった。石黒宗麿(1893年- 1968年)の元へ弟子入りしたのは14歳の頃。分業が主流であった当時、土づくりから窯焚きまで全て1人で行う石黒の姿から、清水は芸術創作のこれからを見たのであろうか。

 

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 戦後になると清水の陶芸制作は活気づいていった。荒廃した時代だからこそ柔らかく暖かみのある焼き物を、と発表した作品は表現に富んだものばかりだ。おおらかな緑釉の壺、シンプルだが斬新な文様の渦文皿、その中でも特に表情豊かだったのは柿釉である。赤味をおびた独特の温雅で気品のある色合い。それを表現するため、清水は師の調合ではなく柿釉に原料を加え、焼成方法を変える工夫を施した。

 

 日本工芸会の要無形文化財伝承者養成研修会を開催した際には「人のやることを見て、自分ならどうするか?自分の体を膨らましてほしい」と若い陶芸家たちに伝えた。1に焚き、2に土、3に細工、と言われる世界の中で、言葉の通り〈焚き(焼成)〉は難しいものとされている。

 この研修会は、現代では主流となったガス窯や調整しやすい電気窯ではなく、焼き物の原点である登窯の焼成を経験してもらうという趣旨でもあった。1100℃を超える温度計は窯内の空気温度しか計測できない。作品の最も適正な温度を知るすべは、窯の中を走る炎、焼き物自体の色を見る目である。それは経験の積み重ねにより養われるのであろう。

 蓬莱山に移り住んでから意欲的に取り組んだのは〈青瓷〉である。もともとは磁器(石)を材料とするものが多い中、あえて鉄分の多い土に変えることで、暖かみのある作品を作り出そうという試みだ。

 窯出しのシーンにおける、魚鱗のような貫入が入っていく様はまさに氷烈。その神秘的な音、映像共に圧巻である。

 

 また映画の後半では、河原で見つけた鉄分の多い石を砕いた釉薬が窯の中で変化することに魅せられた氏が、試行錯誤を繰り返す姿が描かれている。そうして生まれた油滴とは違う銀色に輝く窯変は、現代感覚に優れた鉄釉陶器を生み出したのであった。

 土にこだわり土と語らいながら轆轤を曳く。ぜひ一度はこの記録映画を見て、清水卯一の作品から大自然のような暖かみのある作品を作りたいという強い気持ちを感じてほしい。

 

 

 
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※写真は、すべてポーラ伝統文化振興財団による撮影


  清水映画記録映画「土と炎と人とー清水卯一のわざー」(1990年制作/31分)
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