さて、通常、科学と名のつくものは全て、研究者の 主観を取り除かねばなりません。 逆に、民族学では、研究者のバックグラウンドは 非常に重要です。 生身の人間の目を通して観察する以上、どうしてもその人の考えに影響されてしまうからです。また、自国の文化について学ぶとき、 フィールドのコードとアカデミックなコードの境界が曖昧となってしまうのです。
これを私が研究する神楽に、当てはめてみたいと思います。
通常、日本語で神楽が説明されるとき、その意味するものは多種多様です。神楽とは、ある特定の芸能スタイルを意味することもあれば、舞が行われる祭りそのものを指す場合もあります。地域によって、神楽と呼ばれる舞のスタイルは異なります。このように、神楽の学問的定義は、未だ曖昧と言わざるを得ません。日本文化圏の外へ出て、一度その文化コードを知らないところで説明しようとすると、不具合が生じます。これが、冒頭で述べた「落とし穴」です。(写真:備中神楽神光社のヤマタノオロチ)
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