文字サイズ

  • 大
  • 中
  • 小

ここからコンテンツ情報

お知らせ

2018年09月05日

「なに焼ですか?」
僕の作品を見たときよく聞かれるフレーズです。きっと作品と対峙した時に、何かのきっかけを探してくれているのだと思います。
「なにやき・・・とかではなくて・・・」と僕が答え淀んでていると、だんだんと相手の顔が少し曇り、その内に、おでこの辺りに疑問符が浮かび上がってきます。

これは、「やきもの」の認識において、産地や伝統の大きさを感じさせられるやり取りです。

  Ogasawara03

今回、伝統や産地と深く関わることが無く、「やきもの」と向かい合ってきた作家として、陶芸やクラフト、自由な造形まで全てを含めた「やきもの」文化と現状について少し考えてみたいと思います。
粘土に熱を加えることで硬く耐水性のある物質に変化することを発見して以来、現在に至るまで、気が遠くなる程の長い間、人はせっせと土を焼き固めてきました。
そんな長い時間の中で、技術の蓄積や材料道具の進歩、地域性や美意識と様々な形で進化成熟し、現在の多様な「やきもの」文化が形成されたのだと思います。
日本でも、中国や朝鮮半島からの影響も受けながら、北から南まで沢山の産地が出現し、地域の原料、それに伴った技術や表現と、それぞれで独自の進化を遂げてきました。

  Ogasawara02

明治以降になると、それまで窯元や職人集団の産物であった「やきもの」が、個人の表現物として制作されるようになり、戦後に走泥社が出現して以降は、用途すら放棄した工芸作品が出始め、工芸の領域は拡張してゆきます。

一方で、機械工業の発達により、陶器は必ずしも手仕事ではなくなり、手仕事はある種の嗜好品となりました。

同時に、情報化や物流の進歩に伴い、各地域の文化や土着性は薄まり、逆に個人性が徐々に強まりながら、現在に至っているように思います。

  Ogasawara07

僕は、伝統も手仕事も身近ではない東京郊外のニュータウンで育ち、たまたま入学した美術大学で「やきもの」と出会いました。そんなこともあってか、始め から素材を芸術表現のメディウムとしてとらえ、その可能性を模索してきました。

伝統的な表現は、卓越した技術や地域性を継承しつつも、時代背景に影響を受けながら少しずつ変化、そして進化をしています。僕のようなどこの流派にも属さない「根無し草作家」は、同じ様な内容を個人のなかで行おうとしているのだと思います。

 

概念による芸術もすでにある意味で伝統化して、AIのニュースが毎日のように耳に入ってくる中にあって、「芸術の人間らしさってなんだろう?」「実材と それを変化させる行為から離れられない工芸にはどんな可能性があるんだろう?」と最近よく考えます。

 

そんなことを考えていると、すでに芸術表現には必ずしも必要では無くなった、素材や行為というのが実はすごく面白いことに思えるのです。意識的な行為、無意識の行為、時々失敗、それらの影響をキッカケにした反応としての行為、そしてまた反応・・・。

行為を軸に意識と無意識、そして揺らぎを集積させると、現れる「もの」はあらかじめ決められた目的や結果に向かって集約されるだけではないのです。瞬間における決定、あるいはその決定に左右され続けることもあります。同時に概念も瞬間に左右され続け、いたる道筋結果がつねに揺れ動き、瞬間の累積でモノが現れます。

 

アルゴリズムの外側でモノが出来上がるような感じです。

  Ogasawara08

人間や人格と同じように「もの」もそうあって良いのでは?という個人的な視点から思考し、私は「やきもの」を作っています。そして、僕のような個人的な発信が多方面から蓄積することによって、また新たな個人の発信につながってゆく、個の表現の集合として文化が出来ているのだと思います。

日本の「やきもの」文化は、個人レベルで時代やそれに対応した思想思考が反映され、様々なジャンルの垣根を越えながら国際的に見ても高いレベルで進化しています。

 

是非皆さん、一度、「やきもの」との会話をしてみてください。彼らは結構、饒舌に語りますよ。

 

小笠原 森
「やきもの・粘土の性質を受け入れることによって見えてくる、方法や成り立ち—それらを表現の可能性として、形を考えます。」

 

【略歴】

1978  東京都生まれ
1999  多摩美術大学 工芸学科 陶プログラム入学
2003  多摩美術大学 大学院美術研究科 工芸入学
2005  多摩美術大学 大学院美術研究科 工芸修了
      同大学 工芸学科 陶研究室勤務(2009まで)
2009〜 自宅・スタジオ兼ギャラリーの「Studio Stick」を立ち上げ制作活動
2012〜 多摩美術大学非常勤講師 

 

【入選・受賞】

2003  第39回神奈川県美術展 平面立体部門 入選
2007  第43回神奈川県美術展 平面立体部門 大賞
2011  美濃国際陶芸フェスティバル 入選

 

URL:http://www.ogasawarashin.net/profile.html


ここからサブコンテンツメニュー


  • ページトップへ戻る