2018年07月25日
映画解説(工芸部門)vol.7
「和紙のこころ」を問う
映画「細川紙の美を漉く-和紙のこころ-」 |
中川 智絵(紙の文化博物館 学芸員)
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和紙とはなんですか?
日本古来の紙、手漉きの紙、コウゾやガンピなどの靭皮繊維を原料とする紙、近年では和紙の風合いに似せて作られた紙も見られ、それら全てが和紙と呼ばれています。 和紙とは何か、この問いに答えることは、実は非常に難しいのです。
「細川紙の美を漉く-和紙のこころ-」は 1982年、今から約40年前に完成した細川紙の記録映像です。
「今の紙は見てくれのきれいな紙、力というものがなくなった」と嘆く江戸小紋の重要無形文化財技術保持者(いわゆる人間国宝)の小宮保孝氏が「本物の紙」と称賛する細川紙の職人、江原土秋氏の紙づくりの工程を通して、和紙のこころが問いかけられます。
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(写真:紙を漉く様子)
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細川紙の起源は江戸時代、紀州細川村(現在の和歌山県高野町)で漉かれていた「細川奉書(ほそかわほうしょ)」が江戸にほど近いこの地に伝わったものとされています。 小学校を終えてから海軍で戦地にいた3年間をのぞき、50年を紙漉きひとすじに生きてきたという江原氏は、「関東育ちの荒々しさにたとえられる強靭さが売り物」とされる細川紙の伝統を守り、紙を漉いてきました。 紙を作ることが趣味であり、良い紙を作ること、注文にこたえる紙ができることが生きがいと語る江原氏は、良い紙を漉くことができれば苦労は苦労でないと言い切ります。
(写真:できあがった紙を検品する様子)
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季節は晩秋、栽培地である群馬県下仁田で、当地ではカズと呼ぶ和紙の原料コウゾを刈るところから細川紙の紙づくりは始まります。カズの黒い皮の部分を剥ぎ取るカズビキ、白くなった皮を水に晒し、完全に煮て、しかも煮過ぎないようにというカズ煮、冷たい水の中で繊維の中の不純物を取り除くチリトリ、繊維をほぐすカズタタキ、どこをとっても手を抜くことは許されない、江戸時代から変わらない工程が、丁寧に映し出されていきます。
(写真:カズビキの様子)
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(写真:チリトリの様子)
※今回の掲載写真はすべてポーラ伝統文化振興財団の撮影
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40年の時を経て、人々の暮らしも、嗜好も変化し続ける現在、和紙もまた変容を続けています。 1978年に国指定の重要無形文化財に指定され、現在も埼玉県の秩父郡東秩父村と比企郡小川町で伝承される細川紙は、2014年にユネスコ無形文化遺産にも登録されました。和紙が脚光をあびる裏で、40年前の当時でさえ聞かれた「和紙の需要の激減とともに減量のカズの生産も減る一方」という言葉が胸に迫ります。 細川紙のいま、そして伝えられる和紙のこころとは何か、それは使い手への問いとなって、現在の私たちへと返ってきています。
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※記録映画「細川紙の美を漉く―和紙のこころ―」(1982年制作/30分)
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