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お知らせ

2018年06月29日

未曾有の大災害となった東日本大震災から7年。
近年、被災各地の伝統文化を捉えたドキュメンタリー映画が次々と公開されています。
津波常襲地域である三陸で、繰り返す津波災害を乗り越え伝えられて来た文化には、
困難を生き抜く先人の知恵が込められています。

映画監督が、映画から観た震災、そして伝統文化の底力を紹介します。(全3回)

 

(第2回)生まれ清まりの物語を生きた神楽 映画『海の産屋 雄勝法印神楽』

 

■気まぐれな海
命を育み、時に奪う海。海辺に暮らしてきた人たちは、その両極の姿に感謝と畏怖の念を覚えてきました。海辺の人々が抱く海の精霊や神々の姿は、ままならない自然そのもの。生命力と慈愛に溢れ、時に凶暴な牙を剥く、“気まぐれな”存在であるようです。

その姿は、映画でもたびたび魅惑的なキャラクターとして描かれています。宮崎駿監督のアニメ『崖の上のポニョ』では、純粋で無垢な海の精霊のような女の子が海嘯とともに現れて町を覆うと、そこに生命力溢れる不思議な世界が現れます。現在公開中の深田晃司監督の『海を駆ける』では、2004年に大津波に襲われたインドネシアのバンダ・アチェという町を舞台に、時に残酷な海の精霊のような男が不意に訪れ、若者たちの心にさざ波を起こすと、また不意に海へと戻っていきます。いずれの場合も、海の狂気の側面だけでなく、その訪れのあと、生まれ清まった新しい世界や感覚が生み出されていることが興味深く感じます。

宮城県石巻市雄勝町の「雄勝法印神楽」は、そのような海の神による生まれ清まりの物語を伝えてきたばかりでなく、東日本大震災の大惨事を経て、まさにその物語を生きた、すさまじい神楽でした。

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■震災翌年2012年の記録
今回紹介する『海の産屋 雄勝法印神楽』は、「雄勝法印神楽」を取材した北村皆雄・戸谷健吾監督によるドキュメンタリー映画。東日本大震災の翌年、2012年に撮影された記録です。神楽が伝わる立浜(たちはま)地区は、大津波により46軒中1戸だけを残して被災。生業の礎であるホタテや牡蠣の養殖棚、道具、船もいっさい流されました。映画は、この何もない殺伐とした光景を「天も地も定まらず、光も闇もわからない混沌とした世界、まるで国生み神話の世界のようだった。」と語ります。そんななか、地区の男たちが祭りと神楽の復興に奔走します。長年神楽を伝え来た担い手であり、この地での再起を決意した12人の漁師たちでした。

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■再生の祭り
神楽の復興のため、男たちは流された面や衣装、道具を揃えます。全国からの支援も寄せられました。漁師の仕事も再開します。ある漁師は「海をいっさい、いっさい恨んでない」と言い放ち、別の漁師は「津波のあとは不思議と漁が多い」といって、以前のように海にでます。

祭りの当日には、他地区に避難していた人々が帰って来て再会を喜びあいます。海辺の荒地に2年ぶりに神楽の音色が響き渡り、地区の再生を予感させます。

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■「産屋」から生まれる未来

クライマックスは「産屋」という、記紀神話に由来する演目です。海の神の娘である豊玉姫が山幸彦との子を身ごもり、出産のため産屋に入ります。「中を覗いてはいけない」という約束を破って、山幸彦が覗いてしまうと、そこには美しい姫とは似ても似つかぬ龍蛇の姿が。正体を見られた豊玉姫は、生んだばかりの子を置いて、泣く泣く姿を消します。別れがなんとも胸に迫る場面です。その時、この1年間に地区で生まれた赤ん坊が、豊玉姫に抱かれて産屋から出てくる役を務めると、丈夫に育つといわれています。地区の未来を祝福する生育儀礼にもなっているのです。この年、震災後初めて生まれた赤ん坊が、その大役を務め上げました。観客の暖かい歓声と拍手が鳴り響きます。

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■神話と異なる結末
「産屋」はその後、神話とは異なる結末を辿ります。正体を見られた豊玉姫が怒りの形相の龍神となって舞い戻り、山幸彦との壮絶な大立ち回りを演じるのです。その狂気の姿は、荒れ狂う海を写しとったもののようです。豊穣の源とも、悲劇の源ともなる海。漁師たちの生活感情に根ざした、その“気まぐれな”姿が神楽に投影されているのかもしれません。海との抜き差しならぬ交流を生きて来た、漁師の神楽を観た思いがしました。

 

【雄勝法印神楽(おがつほういんかぐら)】

宮城県石巻市雄勝町に伝わる民俗芸能。国指定重要無形民俗文化財である。大乗神楽、山伏神楽などとも呼ばれる東北一帯に伝承される神楽の一つ。雄勝町内の各神社の春・秋の祭で奉納される。室町時代(約600年前)に、羽黒派の修験者(地元では”法印さん”と呼ばれた)によりもたらされ、伝承されてきた。明治の神仏分離、神道化政策により修験道が禁止されると、一般の人々が「神楽団」(現在は保存会)を組織し、担うようになった。その時に神楽の内容も、「日本書紀」や「古事記」など国家神道を支える神話のストーリーに塗り替えられたが、太鼓や笛のリズム、力強い足踏みや、袖の下で結ぶ秘密の“印”などに、修験道の要素が色濃く残されている。

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【作品情報】

『海の産屋 雄勝法印神楽』 監督:北村皆雄・戸谷健吾/2018年(2012年撮影)/日本/77分

製作:ヴィジュアルフォークロア/ネオンテトラ

2018年9月1日(土)伊那旭座(長野)にて特別上映!公式サイトhttps://www.uminoubuya.com/

予告編 https://youtu.be/vW5fzMCUcXU

 

遠藤 協(えんどう・かのう)

映画監督・映画プロデューサー 1980年生まれ。慶應義塾大学在学中に民俗学と文化人類学を学ぶ。映画美学校ドキュメンタリーコース修了後、数多くのドキュメンタリー映画やテレビ番組、記録映像等の制作に携わる。とくに日本各地の民俗文化や芸能のドキュメント制作に力を入れている。2017年に『廻り神楽』を公開。

 

 


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