2018年06月15日
未曾有の大災害となった東日本大震災から7年。近年、被災各地の伝統文化を捉えたドキュメンタリー映画が次々と公開されています。津波常襲地域である三陸で、繰り返す津波災害を乗り越え伝えられて来た文化には、困難を生き抜く先人の知恵が込められています。
映画監督が、映画から観た震災、そして伝統文化の底力を紹介します。(全3回)
(第1回)大津波を生き抜いた黒森神楽 映画『廻り神楽』
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★申し訳ございませんが、写真は事情により、2018年6月18日に掲載いたします。
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■三陸を旅する黒森神楽
岩手県の沿岸部を、冬のあいだ各地を移動しながら祈りの神楽を舞う人たちがいます。岩手県宮古市の黒森神社に伝わる黒森神楽です。「権現様」と呼ばれる獅子頭を携えて各地を巡り、海や山などの自然の神々の化身となって舞い踊ります。人々の願いを受け止めながら340年以上続けられてきました。三陸沿岸は数十年に一度、大津波に襲われています。この100年あまりの間にも4度の大きな津波が襲っています。黒森神楽は、こうした津波を乗り越えながら続けられてきたのです。 (写真1:黒森神楽の権現様)
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■巨大津波を乗り越えて
東日本大震災の巨大津波により、黒森神楽が訪れる沿岸部の多くは、大きな被害を受けました。神楽衆も、長年神楽を受け入れてきた海辺の人々も、それぞれに深い傷を負いました。
大津波から6年となる2017年初春、筆者は現代も沿岸部を廻り続けている黒森神楽の足跡を追って、ドキュメンタリー映画『廻り神楽』(遠藤協・大澤未来監督)をつくりました。復興工事が進む被災地で、人々が神楽に託すさまざまな願いを垣間みました。津波災害が宿命ともいわれる“津波常襲地域”三陸で、なぜこのような神楽が絶えることなく伝えられてきたのでしょう? (写真2:海辺を巡る神楽衆)
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■震災3ヶ月後に活動を再開
黒森神楽は地震発生3ヶ月後の2011年6月に、早くも活動を再開しました。避難所を訪問して慰問の神楽を披露したのです。自粛ムードが世の中を覆う中、人々を少しでも元気づけたいとの思いだったということです。賑やかな神楽の舞と音に、避難所の人々の表情がぱっと明るくなるのがわかったといいます。
黒森神楽の大きな特徴は、「神楽念仏」といって、亡くなった人の魂を弔う舞を行うことです。神仏混淆の修験者の流れを汲むという黒森神楽ならではの舞です。黒森神楽は、訪れた各地の浜辺で「神楽念仏」を唱えたそうです。それは、村々に暮らしていた人たち、神楽を心待ちにしていた人たち、突然の別れをしたすべての人たちの冥福を願う祈りだったことでしょう。 (写真3:神楽念仏)
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■6年後の役割
それから6年。復興工事の進む沿岸各地では、人々の再出発を祝福する黒森神楽の姿がみられるようになりました。高台移転により新築した家では「柱固め」の舞が行われます。権現様が家の柱を噛む仕草をして祓い清め、家内繁栄を祈るのです。ある港では漁師の依頼で「船祝い(ふないわい)」が行われました。漁船の新調に伴って、権現様が船の隅々を噛み、海上安全と大漁祈願を祈るのです。
この2年程は、とりわけ「柱固め」の依頼が急増したといいます。新たな住まいでの門出に際して、神楽に背中を押してもらう事は、海辺の人たちにとって、とても心強いものであるに違いありません。 (写真4:船祝い) |
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■喜びと悲しみに寄り添う
悲劇と再生に寄り添ってきた黒森神楽。東日本大震災だけでなく、これまでの大津波の際にも、きっと人々のよろこびと悲しみに伴走してきたことでしょう。だからこそ、この地域で340年以上も続いて来たのかもしれません。 (写真5:山の神舞) |
【黒森神楽】
正月になると黒森神社の神霊を移した「権現様」(獅子頭)を携えて、陸中沿岸の集落を廻り、家々の庭先で権現舞を舞って悪魔払いや火伏せの祈祷を行う。夜は宿となった民家の座敷に神楽幕を張り夜神楽を演じて、祈祷の舞によって人々を楽しませる。340年以上、三陸の南北150キロメートルにおよぶ地域を巡り続けてきた。国指定重要無形民俗文化財。
【作品情報】(チラシ画像)
『廻り神楽』 監督:遠藤協・大澤未来/2017年/日本/94分
製作:ヴィジュアルフォークロア
キネマ旬報2017年文化映画ベスト・テン作品
8/4(土)〜6(月)鹿児島ガーデンズシネマにて【アンコール上映】
9/1(土)伊那旭座(長野県)にて特別上映
公式サイトhttps://www.mawarikagura.com/
予告編https://youtu.be/pC77XwytRpg
遠藤 協(えんどう・かのう)
映画監督・映画プロデューサー 1980年生まれ。慶應義塾大学在学中に民俗学と文化人類学を学ぶ。映画美学校ドキュメンタリーコース修了後、数多くのドキュメンタリー映画やテレビ番組、記録映像等の制作に携わる。とくに日本各地の民俗文化や芸能のドキュメント制作に力を入れている。2017年に『廻り神楽』を公開。
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