2015年03月30日
【和をつなぐメッセージ】第13回 名倉鳳山さん(硯工芸作家)
いま、伝統文化の各分野でご活躍の方々は、どのようなことを考え、取り組んでいらっしゃるのでしょうか。
「和をつなぐメッセージ」では、伝統文化の各分野の第一線でご活躍のみなさまが、
そのわざをどのように未来へ「つなぐ」ことを考えていらっしゃるのか、
共通の5つの質問Five Questionsを通して、等身大のご意見を伺っていきます。
和をつなぐメッセージは、季刊でみなさまへお届けします。
第13回は、名倉鳳山さんからの和をつなぐメッセージです。
1972年 愛知県立旭丘高校美術科卒業
1977年 東京藝術大学彫刻科卒業
1990年 第21回 東海伝統工芸展 愛知県知事賞受賞
1991年 第7回 伝統工芸第七部会展 日本工芸会賞受賞
1997年 第44回 日本伝統工芸展 日本工芸会奨励賞受賞
(文化庁買上となる)
1999年 第21回 都市文化奨励賞受賞
2003年 愛知県芸術文化選奨文化賞受賞 五代鳳山襲名
2010年 新城市無形文化財に指定される
2013年 第33回伝統文化ポーラ賞地域賞受賞
2013年 第60回日本伝統工芸展奨励賞受賞
2014年 第61回日本伝統工芸展より特待作家(招待)となる
①最近のお仕事で印象に残っていること。
2013年(平成25年)の秋、東京藝大で助手を勤めていた息子が初めて硯を作りました。
それは東日本大震災で壊滅した宮城県雄勝硯の復興事業として、若手作家に新作硯の制作依頼があってのことでした。私も原石の準備や硯刻の技術的な面で指導や手伝いをしました。
そのことは、私自身にとって思わぬ心境を残しました。初心を思い出すと共に改めて原石の美しさと存在感を見つめ直すことが出来たのです。現在、今春の展覧会に向けて制作中ですが、シンプルな硯の原点を見極めるような新作を作りたいと思うのは、今でもあの時の印象が継続しているからかも知れません。
左) 五代名倉鳳山作:玖陵硯 KURYO-KEN / 2009年 24.3 × 16.5 × 5.8cm 鳳鳴石
右) 名倉達了作:円桃硯 ENTO-KEN / 2015年 12.0×12.0×2.5cm 鳳鳴石
②この道を歩もうと決心したのは、何歳のとき、どのようなきっかけでしたか?
1968年(昭和43年)中学3年生の秋、四代目の父から美術高校・美術大学への進学を薦められました。その時父は一言も「跡を継げ」とは言いませんでした。15歳の私は世間知らずだったことは言うまでもなく、不器用で絵や工作が苦手な我が身にとって受験がいかに厳しいものか、まして伝統継承という事の重大さなど考えることもなく、少しばかりの都会への憧れが背中を押しました。本気で家業を継ぐことを考えていたとは思えませんが、『一人息子としていつか田舎に帰って跡を継ぐのだろう』と意識し、進学を決めた自分がいたように思います。
そして、本気でこの道を歩もうと決心したのは、公募展出品等ある程度経験を重ねた30歳の頃だったと思います。
③座右の銘は。
「継続は力なり」
大学卒業と同時に家業の道に入り38年経ちました。ただ漠然として長く仕事を続けてきた様にも思えますが、振り向けば足跡は確実に残っています。この頃では、続ける苦しさより作る喜びを感じる方が多くなってきました。
④伝統文化を未来につなぐために、いま、どのようなことをなさっていますか?
日本伝統工芸展への出品のほか、子供鑑賞事業等で小中高生に硯の文化・制作工程などを伝えています。また書道団体の研修会などに出向いての講演の他、自宅の工房兼アトリエで実演を交えた講演活動。大学で日本画の学生に硯の文化と正しい手入れ方法などを講義しています。
後継者への技術伝承については、少しずつ息子へ伝え始めたところです。
⑤和をつなぐメッセージリレー
伝統文化の様々な分野の方が「つなぐ」をキーワードに、リレー形式で質問をつないでいきます。
☆ 第13回は、林美音子さんから名倉鳳山さんへのご質問。
私の演奏している「柳川三味線」は、日本で三味線が誕生した当初の姿を残した、三味線の「祖型」と言われていますが、現代での認知度は極めて低く、若い演奏家も非常に少ないのが現状です。鳳来寺硯も、いくたびかの衰亡の危機に見舞われたとのことですが、先生は後継者の育成についてどのようなお考えをお持ちでしょうか。ご指導について重きを置かれている点、などお聞かせ頂けましたら嬉しく思います。
☆ 名倉鳳山さんからのご回答
パソコンが普段の生活に普及している現代。それでも筆を持って書をたしなむ多くの人がいます。また、筆で自分だけの文字を書くことに憧れる人はもっと多いと思います。
しかし、硯と墨を使わない墨汁での書道が主流となり、硯の認知度は一段と下がってきました。そんな中で家業として伝承してゆく事は非常に厳しくなって来ました。
30歳の息子は私と同じように大学で彫刻を学びました。しかし私が直に作硯の道に入ったのと異なり、現代アートの作家として、また大学で彫刻の研究者として歩み始めています。
そして、前述の体験(宮城県雄勝硯の復興事業に関わらせて頂いた)をきっかけに家業を見直し、硯を作り始めました。現代彫刻の研究と平行して少しずつ硯作りを継続して行く。その道が見えてきた所です。大量に制作する技術ではなく素材やデザインを再考し、日本文化における現代の硯を研究し、発信してほしいと願っています。
【企画展のご案内】
・名古屋 古川美術館特別展
『メイド・イン・愛知 工芸の架け橋』
開催中~5月10日(日)
・第46回東海伝統工芸展
名古屋丸栄 5月 7日(木)~ 12日(火)
岐阜髙島屋 5月14日(木)~ 19日(火)
・第25回伝統工芸諸工芸部会展
日本橋三越 6月 3日(水)~ 9日(火)
※名倉鳳山さんは、平成24年度 第33回伝統文化ポーラ賞地域賞受賞者です。