お知らせ伝統文化レポート伝統文化通信
2025年08月06日
令和7年度の助成事業の採択先(5件)決定いたしました。詳しくは、「顕彰と助成」の頁をご覧ください。
https://www.polaculture.or.jp/promotion/jyoseipast.html
●「鮫神楽の太鼓修理、鎧・衣装修理、烏帽子等の作成事業」(鮫神楽保存会:青森県奥州市)
●「川西大念佛剣舞の『面』整備事業」(川西大念佛剣舞保存会:岩手県奥州市)
●「各務原地域に伝わる絵絹の調査・研究とアーカイブ作成事業」(廣江貴子 岐阜県各務原市)
●「加賀市錦城能学会『能楽器更新』事業」(加賀市錦城能学会 石川県加賀市)
●「佐伯灯籠後継者育成事業」(佐伯灯籠保存会 京都府亀岡市)
伝統文化の振興と次世代への継承を目的とした事業です。各事業の情報についても順次、お知らせいたします。
ご期待ください。
2023年08月01日
2023年07月27日
文化審議会は、7月21日、重要無形文化財の保持者(人間国宝)の認定などを文部科学大臣に答申しました。
今回答申された12人のうち、4名もの方が「伝統文化ポーラ賞」受賞者になります。
●吉田玉男先生(第17回(1997年)伝統文化ポーラ賞 大賞):文楽の伝承・振興
●祝嶺恭子先生(第24回(2004年)伝統文化ポーラ賞 優秀賞):首里の織物の伝承・振興
●松原伸生先生(第38回(2018年)伝統文化ポーラ賞 優秀賞):長板中形の制作
●藤塚松星先生(第39回(2019年)伝統文化ポーラ賞 優秀賞):竹工芸の制作・伝承
人間国宝は、芸能55人、工芸技術54人 合計109人となります。
伝統文化ポーラ賞については、https://www.polaculture.or.jp/promotion/polaaward.html
2023年06月19日
狂言の魅力を知る講演会と伝統文化記録映画「野村万作から、萬斎、裕基へ」の上映会を開催いたします。
ふるってのご参加をお待ちしております。
●日時:令和5年7月29日(土) 14時(開場13時30分~)-15:40
●会場:國學院大學渋谷キャンパス 学術メディアセンター 常盤松ホール
●入場:無料 定員150名(事前申込制)
※お申込みはメール:[email protected] (件名「狂言の心」とし、お名前、参加人数を明記して下さい)
お電話の場合は、03-3494-7653(平日10時~17時) 公益財団法人ポーラ伝統文化振興財団まで。
2023年03月08日
約700年前から秋田羽後町に伝承される「西馬音内盆踊り」。「阿波踊り」「郡上おどり」と合わせて、「日本三大盆踊り」と称されています。1981年には重要無形民俗文化財に指定され、昨年11月にユネスコ無形文化財遺産に登録された「風流踊」の一つです。人と精霊がともに踊る風景をyoutubeにアップしました。ぜひ、ご覧下さい。
2023年02月13日
令和2年に国立工芸館が石川県金沢市に移転後、首都圏で工芸作品の魅力を伝える場が少なくなりました。
今回、旧東京国立近代美術館工芸館(千代田区北の丸公園)にて、重要無形文化財保持者(人間国宝)の作家4名による技の解説および実演、記録映画の上映を行います。
参加費は無料(事前申込が必要)。
東京開催のこの機会にご関心のある方は、ご参加下さい。
●開催日:令和5年3月25日(土)、3月26日(日)
●申し込み期限:3月15日(水)まで
●定員:各回50名(申し込み多数の場合は抽選)
詳しくは、下記HPをご覧下さい。↓
2023年01月30日
國學院大學環境教育プロジェクト、國學院大學共存学プロジェクト、NPO法人社叢学会による
講演会・上映会「人・社・祭 - 文化風土の記録」を開催されます。
当日は、「全国各地の御神木から見えてくるもの」と題し、御神木にまつわる興味深いお話が聞くことができます。
また、諏訪大社の御柱祭など、御神木に関する映画「神の木、神の森」(2005年 NPO法人社叢学会制作 17分)が上映されます。
参加無料、申し込み不要(定員150名)ですので、ご興味のある方は足を運ばれてはいかがでしょうか?
1.日時:令和5年2月18日(土) 14::00開演(13:30~開場)-16:30終了予定
2.会場:國學院大學 渋谷キャンパス 國學院大學学術メディアセンター(AMC)棟 1階 常盤松ホール
※渋谷駅(JR山手線・地下鉄・井の頭線・東急)から徒歩13分
※都営バス(東口バスターミナル54番のりば、03日赤医療センター行)「国学院大学前」徒歩10分
ご参加希望の方は、当日、直接、会場にお越し下さい。(事前申し込み不要、定員150名)
2023年01月27日
令和5年度の助成事業の申請書を2月1日~3月31日まで受付ます。
伝統工芸(技術)、伝統芸能、民俗芸能・行事の保存、振興事業に関する
助成を希望される個人・団体は、所定の助成申請書を期日までにご郵送下さい。
詳しくは、当財団HP「顕彰と助成」の「助成事業申請要領」ページをご覧下さい。
↓
https://www.polaculture.or.jp/promotion/jyoseiapply.html
2022年10月27日
ポーラ伝統文化振興財団が企画した伝統文化記録映画「野村万作から萬斎、裕基へ」(制作:毎日映画社)が映文連アワード2022 ソーシャル・コミニケーション部門 優秀賞を受賞しましたのでお知らせいたします。
本年度は160作品の応募数の中から、2度の厳正なる審査を経て受賞が決定いたしました。
これで本作品は、「第23回ワールドメディアフェスティバル(ドイツ) パフォーミングアーツ部門金賞」、「教育映像祭『教養部門』最優秀作品賞(文部科学大臣賞)」に続いて、3つめの快挙となります。
映文連アワードとは、プロフェショナルの仕事に相応しい作品を積極的に発掘・顕彰することによって短編映画界の活性化を図るとともに次世代を担う新しい才能を発掘し、映像業界のインキュベーターとしての機能を担うことを目的に2007年に創設された短編映像祭です。
◇映文連アワードについてはコチラ↓
https://www.eibunren.or.jp/?p=5920
◇「野村万作から萬斎、裕基へ」の概要はコチラ↓
https://www.polaculture.or.jp/movie/index.html
◇伝統文化記録映画の無料貸出のご案内はコチラ↓
https://www.polaculture.or.jp/movie/rental.html
2022年10月12日
淡路島・南あわじ市の常設館を活動の拠点にしている「淡路人形座」。
その東京公演が、開催(主催:渋谷区)されます。
https://shibu-cul.jp/news/4228
淡路人形座についてはこちら↓
是非ともこの機会に「人形浄瑠璃」の魅力を堪能してみませんか?!
●2022年11月27日(日) 13:00開演(12:30開場)
●渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール(6階)
詳しくは、渋谷区文化総合センター大和田のHPまで ↓
2022年10月07日
弊財団は、地域密着型伝統芸能プロジェクト❝渋谷の学び舎”に協力しています。
今年の「古典の日」公開講座は、
【女流義太夫公演】 「人間国宝 『竹本駒之助 鶴澤津賀寿の至妙』」
●2022年11月1日(火) 18:00開演(17:30開場)
●渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール (渋谷駅より徒歩5分程度)
●全席指定4,500円 (渋谷区民:3,000円)
詳しくは、伝承ホール寺子屋特設サイト↓
2021年09月02日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを目的として、顕彰を行ってまいりました。 昨年40回を迎えた「伝統文化ポーラ賞」。この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。 |
第38回 伝統文化ポーラ賞 地域賞 福野夜高保存会「夜高行燈と夜高祭の保存・継承」 川﨑瑞穂(博士/東京電機大学大学院ほか講師) |
山車(だし)や曳山(ひきやま)などと呼ばれる出し物の曳行(えいこう)や、仮装した人びとによる華やかな行列など、日本各地の祭礼にて見ることができる「練物」(ねりもの)を、この分野の研究では「風流」(ふりゅう)と呼ぶことがあります。本来は趣向をこらした装飾や仮装などを意味する言葉でしたが、次第に祭礼に登場する各種の練物をも意味するようになりました。地域に伝わる多彩な「盆踊り」など、様々な形態の芸能がこのジャンルに含まれます。哲学者の九鬼周造(1888~1941)は「風流に関する一考察」(1937年)という論文の中で、風流(ふうりゅう)の特徴を「世俗的価値の破壊または逆転」であるとまとめています。まさに常識を覆すような驚くべき意匠/衣装こそ、風流(ふりゅう)系の芸能の醍醐味であるともいえるでしょう。 |
各地に伝わる山・鉾・屋台行事を観に行けば、出し物を中心に人びとが参集するエネルギーをひしひしと感じることができるでしょう。富山県南砺市で毎年5月に行われる福野夜高祭はその一例であり、曳山や庵屋台(いおりやたい)、そして行燈(あんどん)といった数々の出し物が登場します。とりわけ、「夜高行燈」(よたかあんどん)という高い行燈の上で、まるでケンカをするかのように人びとが行燈を壊しあうという「けんか行燈」によって知られており、豪快な駆け引きが各地の人々を魅了してきました。夜高太鼓の音に彩られながらドラマティックに崩れ行く行燈。とある南砺の町の片隅がひととき世界の中心となるような、日常とかけ離れた異質なまでの時空間がそこに広がります。 |
この祭礼は、神明社の祭典(春祭り)に付随する行事であり、5月1~2日が前夜祭、3日には曳山・神輿の巡行があります。行燈は12月頃から構想を練りはじめ、2月中旬、雪解けの季節から造りはじめます。夜高行燈は全てこの祭礼に参加する人びと自らの手で作り出されます。令和に改元後最初の祭礼では、16メートルもの巨大な行燈を出しました。街一体となってつくりあげるのがこの祭礼の魅力ともいえるでしょう。 |
二ヶ月半かけてつくったものを一晩で壊してしまう「引き合い」が祭礼のクライマックス。「いさぎよさ」こそが醍醐味であり、苦労して作ったものを自分たちで壊すことが一つの「いきがい」にもなっている、そう伝承者たちは熱く語ります。「蕩尽」、すなわち作り出すことだけではなく消し去ることもまた文化の重要な一側面であることを、この祭礼は言外に物語ります。 |
伝統文化ポーラ賞を受賞した福野夜高保存会は、現在でも受賞時と変わらず、「夜高行燈と夜高祭の保存・継承」を主導し、地域の振興を支えています。 注:来年の祭礼の開催等につきましては、事前にご確認ください。 |
2021年04月25日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを目的として、顕彰を行ってまいりました。 昨年40回を迎えた「伝統文化ポーラ賞」。この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。 |
第37回 伝統文化ポーラ賞 地域賞 鶴見田祭り保存会「鶴見の田祭りの保存・伝承」 川﨑瑞穂(博士・東京電機大学大学院 ほか講師) |
受け継がれる芸能もあれば、失われゆく芸能もあります。歴史上、どれだけの芸能が生まれては消えていったことでしょう。私たちが接することができるものはそのうちのいくつかに過ぎません。過去の芸能のありさまがどのようなものであったか、あるいは現在私たちの身の回りに受け継がれる芸能がどのように発生したのかを考える、そういった「たて」(歴史)の学問が「芸能史研究」です。無論、同じ川に二度入ることができないのと同様、芸能は「いまここ」で生成変化する「なまもの」ですから、「よこ」、すなわち現在という断面から観察することも忘れてはなりません。「たて」と「よこ」を紡ぐ視点が、時には失われた芸能を「復活」させることもあります。神奈川県横浜市鶴見区に伝わる「鶴見の田祭り」はその好例でしょう。 |
鶴見の田祭りは、毎年4月29日のみどりの日に斎行されます。当日は、鶴見神社の境内に設えられた舞台(もがり)を中心に、農耕の所作を模擬演技していきます。田祭りは他の地域では「田遊び」などとも呼ばれ、豊作を予め祝う「予祝」(よしゅく)の意味が込められています。鶴見の田祭りは鎌倉時代には行われていたと考えられる貴重な芸能ですが、明治4年(1871)を最後に伝承が途絶えました。しかし、芸能に関わる「たて」の史料の掘り起こし、「板橋の田遊び」(東京都)など類似した「よこ」の芸能の観察といった、地域の人々、そして研究者の懸命な努力により、昭和62年(1987)に見事復活を果たしたのでした。このように、「たて」と「よこ」の調査・研究は、時には芸能を生き返らせることもあるのです。 |
麗らかな春の日の午後に行われる田祭りも、後半には夜の帳が下り、幻想的な雰囲気の中で粛々と行事が進みます。暗闇に包まれた舞台に登場するのは、牛や馬、羊に扮した人々。かつては田んぼが広がっていたという鶴見ですが、現在ではビルが並ぶ都市の風景が広がります。ビルの谷間に突如動物たちが登場し、所狭しと舞い躍る様は実に壮観なものです。 |
その後、舞台の上で行われるのが「直会」(なおらい)。御膳に載せられた食べ物を一緒に食べること、それはただの食事ではありません。「ハレ」、すなわち非日常の場たる祭礼の時空間から、「ケ」、すなわち日常に戻ってくるための儀礼であるとも考えられています。 |
伝統文化ポーラ賞を受賞した鶴見田祭り保存会は、現在でも受賞時と変わらず、「鶴見の田祭りの保存・伝承」を主導し、地域の振興を支えています。 *令和3年4月29日(木)昭和の日 鶴見神社HP https://tsurumijinja.jp/tamatsuri/ |
2021年04月12日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを目的として、顕彰を行ってまいりました。 昨年40回を迎えた「伝統文化ポーラ賞」。この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。 |
第12回 伝統文化ポーラ賞 特賞 近藤孝「天津司舞の保存・伝承」 川﨑瑞穂(博士・東京電機大学大学院 ほか講師) |
好きであっても苦手であっても人を惹き付けてやまない「人形」。「人」の「形」をしていても「人」ではない存在。今でも人形といえば怖い都市伝説などがつきものですが、人形に「魂」を吹き込むことで生まれる文化の一つが「芸能」であるともいえるでしょう。平安時代には、「傀儡」(くぐつ)と呼ばれる人形で芸能を演じる人々(傀儡子)が、生き生きと芸能史の舞台に登場することとなりました。人形の芸能はその「呪術性」も特徴としており、現在でも聖性を帯びた人形が登場する民俗芸能が各地に伝わります。とりわけ、山梨県に伝わる「天津司(てんづし)舞」は、傀儡の伝統を今に伝えるとされる大変珍しい民俗芸能です。 |
山梨県甲府市小瀬町。春のうららかな陽が降り注ぐ、満開の桜の天津司神社からお祭りは始まります。「入魂の儀」が行われたのち、神社から運び出されるのは、顔に赤い覆いがある不思議な人形たちです。赤い布は人形が「御神体」であることを意味しており、人形の芸能が「聖なるもの」と関わってきた悠久の歴史を伝えてくれます。太鼓と笛の音に導かれて、人形たちは行列になって鳥居をくぐっていきます。人形たちの厳かなパレードは天津司舞が奉納される諏訪神社まで続きます。 |
舞台は幕で覆われた「御船」(おふね)と呼ばれる空間。そこに、にょきっと下から登場するのが人形たちです。手に持つのは笛や太鼓、ビンザサラといった楽器の作り物。ビンザサラは田楽と呼ばれる中世芸能を象徴する楽器であり、儀礼的な所作と演劇的な所作を併せ持つ人形の動きは、傀儡が田楽を演じる「傀儡田楽」の面影を遺します。 |
それぞれの演目は、緩やかな囃子《お舞いの曲》に乗った「お舞い」と呼ばれる舞ののち、テンポの速い囃子《お狂いの曲》に乗った「お狂い」と呼ばれる舞となり、また元の曲に戻るという形式を持ちます。数種類の演目がありますが、見目麗しい「御姫様」といささかコミカルな「鬼様」が登場する最後の演目は、とりわけ見るものを楽しませます。 |
歴史上、天津司舞は何度も中断と復活を経て今日に受け継がれてきました。いつの時代もその「人形」の尽きせぬ魅力が人々に復活の動機を与えてきたのでしょう。 伝統文化ポーラ賞を受賞した近藤孝氏は、長らく「天津司舞」を主導し、地域の振興と伝統の継承に貢献されました。そして現在でも天津司舞保存会は、受賞時と変わらず、「天津司舞の保存・伝承」を主導し、地域の振興を支えています。
甲府市観光課HP https://www.city.kofu.yamanashi.jp/welcome/saijiki/tenzushi.html |
2021年03月29日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを目的として、顕彰を行ってまいりました。 本年で40回を迎えた「伝統文化ポーラ賞」。この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。 |
第19回 伝統文化ポーラ賞 地域賞 稲川武男「粟野春慶塗の伝承」 世川祐多(パリ大学博士課程) |
春慶塗(しゅんけいぬり)は、下地を補強せずに透明度の高い透漆(すきうるし)で仕上げることにより、木目を見せる漆器のことです。透漆とは生漆から水分を取りのぞき、透明度を高くした漆であり、これにより自然の木目の美しさが際立ちます。主に粟野、飛騨、能代、木曽、伊勢の春慶が著名で、稲川武男氏はこの中でも茨城県中央部城里町の名産、粟野春慶の作り手です。 |
粟野春慶は、500年以上前、1489年に稲川山城守によって創始されました。その特徴は、素材に堅牢な茨城産ヒノキと茨城大子の漆を用い、原料の生産から仕上げまでを茨城で完結することです。それにより、質感は透明感に溢れ、光沢が麗しく仕上げられます。 |
江戸中期、德川光圀は紀州の漆工と粟野の稲川家8代目稲川興兵衛を競わせました。その結果、稲川興兵衛が勝利したことで水戸藩の御用となり栄えました。文明開化後もその伝統は続き、戦前期には20軒ほどの職人を擁し、外地に輸出をするほどでありました。しかし、戦後プラスチック容器などに押される形で、他の日本の漆器同様、粟野春慶は衰退し、作り手は稲川山城守のご子孫である稲川氏ただ一人になってしまいました。 |
稲川氏の作品は、下地に漆しか用いず、土室で丁寧に乾燥させるため、漆が剥がれにくく、木目が美しい。そして、年月を経るほどに赤みが抜け、黄金色に光沢が増していきます。秋田県の能代春慶は平成に入り後継者不在となり生産が途絶えてしまったため、粟野春慶を守り抜く稲川氏は、生み出される作品のみならず、存在としても貴重で、今ではご子息の20代目義一氏が粟野春慶の稲川家を継いでいます。 |
城里町桂図書館・郷土資料館 https://www.lics-saas.nexs-service.jp/shirosato/index.html 城里町HP |
2021年03月10日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを目的として、顕彰を行ってまいりました。 本年で40回を迎えた「伝統文化ポーラ賞」。この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。 |
第30回 伝統文化ポーラ賞 地域賞 鬼来迎保存会「鬼来迎の保存・伝承」 川﨑瑞穂(博士・神戸大学特別研究員) |
「鬼」といえば「節分」ですが、日本の春夏秋冬を彩る祭礼とその芸能にも、実に様々な鬼が登場します。鬼を追い払う「追儺」(ついな)という儀礼が芸能化したものが地方に多くのこるほか、民間の神楽などにもバラエティ豊かな鬼たちが姿を見せます。8月のお盆に催行される「鬼来迎」(きらいごう:千葉県山武郡横芝光町虫生)もまた、鬼が登場する民俗芸能として知られています。「地獄芝居」と言われるこの芸能では、鬼たちが亡者をあらゆる方法で痛めつけ、真夏の境内はさながら「三次元の地獄絵図」と化します。 |
あの世を視覚化すること。それは古今東西の演劇が得意としてきたことであり、現在でも様々な舞台であの世が可視化されます。とりわけ「地獄」を表現した芝居は多く、歌舞伎や宝塚歌劇のほか、最近ではアニメや漫画などといった二次元の世界でもおなじみのモチーフとなっています。亡者を襲う地獄の苦しみと仏による救済。かつてはいくつかの地域で行われていた「地獄芝居」ですが、現在は鬼来迎のみがその伝統を受け継ぎます。 |
今日上演されている鬼来迎は、演目の取捨選択を経て現行のスタイルになりました。最初の演目を「大序」(だいじょ)として地獄の冥官(みょうかん)や獄卒(ごくそつ)の披露をすることや、最後の演目の幕切れの演出、せりふの扱いなど歌舞伎の影響があるとされています。また、古くは最後に二十五菩薩の「練り供養」(ねりくよう)も行っていたと言われています。練り供養とは、人間が死に至る刹那、阿弥陀如来が菩薩たちとともに「来迎」し、死者を浄土に「引接(いんじょう)する」(導く)という信仰を可視化した儀礼です。 |
|
フランスの哲学者エマニュエル・レヴィナスが「死が到来するつねならぬ時間は、なにものかがさだめた運命の時のように接近してくる」(熊野純彦訳『全体性と無限』)と表現するように、死の到来とその後の世界は、人類が考える時間を費やしてきた大きなトピックの一つです。鬼来迎では、鬼を主人公として地獄を可視化したのち、仏を主人公として極楽浄土を可視化することで、「死」というテーマを巧みに描き、人々が死後の世界に思いを馳せる助けとなってきたのでしょう。 |
伝統文化ポーラ賞を受賞した鬼来迎保存会は、現在でも受賞時と変わらず、「鬼来迎の保存・伝承」を主導し、地域の振興を支えています。 |
2021年02月25日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを目的として、顕彰を行ってまいりました。 本年で40回を迎えた「伝統文化ポーラ賞」。この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。 |
第20回 伝統文化ポーラ賞 地域賞 鳥羽鐐一「金剛石目塗の伝承」 世川祐多(パリ大学博士) |
静岡は少なくとも室町時代から漆器の生産地で、今川の時代には中川大工と呼ばれる工人たちが漆器を生産していた。江戸時代に入ると、駿河遠江(とおとうみ)で勢力を拡大した徳川家康のお膝元で、彼を祀る久能山東照宮なども作られたことから、腕の確かな職人が日本中から集まる土地となり、漆塗りも栄えた。とりわけ、総漆塗りの浅間神社の造営により漆職人が大量に移住してきたことで、静岡は日本の漆の中心地となり、開国後はパリ万博にも出品された。 |
鳥羽漆芸ショールーム |
ここに新風を吹き込んだのが、大正時代に下地に砂を撒く金剛石目塗(こんごういしめぬり)を考案した鳥羽清一氏である。安倍川で採取される砂の下地の上に何層もの漆を重ねる金剛石目塗は、日本で唯一漆器の下地に砂を用いる技法で作られた、堅牢で艶やか、熱や水にも耐性がある用の美そのものの漆器である。鳥羽氏は、漆下駄にめり込んだ砂を見て、漆の下地に砂を用いる着想を得たそうだ。 |
漆をまとった美しいワイングラス |
鐐一氏は鳥羽氏のご子息であり、金剛石目塗という画期的な発明の継承者である。作風は、重厚、堅牢に気品が兼ね備えられており、武士の甲冑のような気配を帯びている。この腕に魅せられた若者たちが各地から集まり、弟子として鐐一氏の技巧を積極的に学んでいる。そして今では息子の俊行氏が、3代目として現代の食文化やライフスタイルに適した金剛石目塗を作り続けている。 |
鳥羽鐐一氏の長男 俊行氏(左)と孫 直希氏(右)の作業風景 |
鳥羽漆芸(公式HP) |
2021年02月10日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も
活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを
目的として、顕彰を行ってまいりました。 本年で40回を迎えた「伝統文化ポーラ賞」。
この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。
第24回 伝統文化ポーラ賞 地域賞 針生乾馬 「堤焼の伝承・振興」 佐藤典克(陶芸家) |
堤町(仙台市青葉区)にたくさんの窯場があったことがその名の由来となった、仙台ならではの焼物「堤焼(つつみやき)」。江戸時代、北の守りとして足軽町が形成され、堤町の足軽武士は近隣で採れる良質な粘土を利用し、内職として素焼きの鉢や甕などの生活雑器や、土人形などを作って販売していました。 |
海鼠釉夫婦湯呑 |
元禄年間(1688~1704)頃になると、仙台藩主が使う茶器などを手がける御用窯として始まり、粗く優れた地元の土を活かした素朴さと、黒と白の釉薬を豪快に流し掛けた“海鼠釉(なまこゆう)”が特徴となりました。昭和初期に堤町を訪れた民芸の父・柳宗悦(やなぎ むねよし)にも東北を代表する民窯として注目され、水甕(みずがめ)などが高く評価されていくようになります。 |
電子ロクロで成形 |
水甕や鉢といった庶民の生活雑器を広く製造するようになって300年以上の歴史を誇る「乾馬窯」(けんばがま)は、最盛期に30軒以上あった窯元の一つです。需要の減少や急速な都市化による公害問題(窯の煙や煤)などが原因で、昭和50年代には堤町にある全ての窯の火が落ちました。 |
釉掛け(くすりがけ) |
現在では「乾馬窯」が唯一の窯元となり、4代 針生乾馬が昭和39(1964)年に丸田沢(仙台市泉区)の緑豊かな環境に場所を移して伝統と技を守り続け、現在は5代 乾馬が当主を務めています。 |
4代 針生乾馬 |
窯名は、初代当主が仙台藩に造艦棟梁として招かれた幕末の鬼才・三浦乾也(6代 尾形乾山)より授かった陶号が由緒となっており、4代 針生乾馬は、初代 乾馬が書き写すことを許された秘伝書『乾山秘書』をもとに、仙台の土と釉薬を使ってこの地の風土に根ざした焼物、堤焼の伝承・振興に力をいれた人物でもあります。
※お写真はすべて「堤焼乾馬窯」様よりご提供いただきました。 ◇公式サイト:堤焼乾馬窯 |
2021年01月25日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も
活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを
目的として、顕彰を行ってまいりました。 本年で40回を迎えた「伝統文化ポーラ賞」。
この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。
第33回 伝統文化ポーラ賞 優秀賞 岡田裕「萩焼の制作・伝承」 佐藤典克(陶芸家) |
岡田裕氏は、慶応義塾大学法学部を卒業後、一旦水産会社に入社したが、萩焼の魅力に引き込まれ1972年退社し、父であった萩焼の名門晴雲山岡田窯七代岡田仙舟に師事し、作陶に入りました。たゆまぬ研鑽によって体得した萩焼の伝統技法を守りながらも、自身の感性を生かし、現代感覚のあふれる個性的な作風を確立。シルクロードを度々視察旅行した際に得たインスピレーションをもとに生み出された、技法表現「炎彩(えんさい)」において、萩焼の固有素材の美質を活かした内面描写的な制作に励んできました。 |
炎彩陶筥 |
「炎彩」とは大道土(だいどうつち)や見島土(みしまつち)といった萩の伝統的な素地土(きじつち)の泥漿(でいしょう)※と、白釉(はくゆう)などの釉薬をエアブラシを用いて施す装飾技法です。粗密度ある肌模様が全面的に展開され、窯中に激しく揺らめく炎を感じさせます。 ※泥漿:粘土と水を混ぜ合わせ泥のような液体状にしたもの |
昭和48年山口県美術展入選を皮切りに、昭和54年日本陶芸展、日本伝統工芸展と入選を重ね、昭和60年日本工芸会正会員となり、平成18年に山口県指定無形文化財萩焼保持者に認定、平成25年には伝統文化ポーラ賞 優秀賞、平成29年には旭日双光章を受章しました。 |
彩泥花器「蜃気楼」 |
また、長年日本工芸会山口支部幹事長等の役職を勤め、萩女子短期大学の陶芸科で教鞭をとると共に、萩市や山口県内の文化催事でのワークショップや講演を行い、後進の指導等幅広い普及活動を行っています。 萩の伝統に根ざしながら、現代に通ずる新しい作品を作り続ける、岡田氏の今後の創作活動に、さらに大きな期待が寄せられています。 |
◇写真ご提供:日本工芸会 |
2021年01月12日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も
活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを
目的として、顕彰を行ってまいりました。 本年で40回を迎えた「伝統文化ポーラ賞」。
この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。
第18回 伝統文化ポーラ賞 特賞 池田八郎「土佐古代塗の伝承」 世川祐多(パリ大学博士課程) |
土佐古代塗は明治時代に鞘師(さやし)の種田豊水(たねだ ほうすい)により創始された。豊水は明治時代に人力車の背面に蒔絵を施すなどして名を馳せた名工である。土佐古代塗の特徴は、下地に糊などを混ぜずに漆だけを用い、乾かない間にくるみの殻の粉末を地の粉として蒔く(以前は輪島地の粉を用いていた)蒔地法とよばれる技法にある。このために、30日以上かけて丹念に作り上げられる土佐古代塗は、ザラついた鮫肌のような質感であり、強固で重厚感がある。もう一つの特徴は何といっても、素手で触れても指紋がつきにくいというオリジナリティにある。 |
鮫肌のような質感と漆の光沢が趣を漂わせる |
しかし、土佐古代塗には断絶の危機があった。豊水が創始して以来土佐古代塗は弟子たちにより継承されたが、戦後に入ると生活様式の変化と、プラスチックなどの器の台頭で凋落した。そこに現れたのが池田八郎氏であり、池田氏は唯一の継承者として土佐古代塗を守り抜き美禄堂を設立された。昭和時代には、昭和天皇や常陸宮殿下へ献上の名誉にも預っている。 |
むら無く漆を纏わせる、職人の技 |
池田氏のこだわりは、絶対に漆以外の顔料を使わないことにある。そのことでしか、優雅且つ堅牢な漆器はできないからだ。 |
一本一本の細部まで、丁寧な作業が光る |
今、その魂は、唯一の土佐古代塗の職人である息子泰一氏に受け継がれている。 |
池田氏こだわりの土佐古代塗 |
◇写真ご提供:土佐古代塗 美禄堂(下記リンクからHPをご覧いただけます) |
2020年12月25日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も
活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを
目的として、顕彰を行ってまいりました。 本年で40回を迎えた「伝統文化ポーラ賞」。
この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞を受賞された方々を随時ご紹介致します。
第21回 伝統文化ポーラ賞 地域賞 秋葉神社祭礼 練り保存会「秋葉神社祭礼 練りの伝承」 川﨑瑞穂(博士・神戸大学特別研究員)
|
衣装のモチーフ、仮面のモチーフ、音のモチーフ…など、民俗芸能には様々な「モチーフ」があります。多くの研究者がそれぞれのモチーフの意味や歴史を考えてきましたが、中には比較的容易に楽しむことができるものもあります。たとえば手に持つ「棒」に「悪魔や不浄を祓ひ、潔めるといふ信仰」を読み取ったのは、民俗芸能研究で著名な本田安次(ほんだやすじ)。「棒について」(1973)という文章では、「棒には古来神秘的なものがまつはつてゐた」として、「棒状のものを交差させることは、悪魔払ひになる」と述べています。 様々な「棒」が登場する祭礼に、高知県の秋葉神社(吾川郡仁淀川町別枝)にて行われる「秋葉祭り」があります。毎年2月11日に行われる、岩屋神社から秋葉神社に向かう華やかな行列(練り)によって知られており、身長の何倍もある「鳥毛」(とりけ)という毛槍(大名行列などで用いられる鳥毛の飾りをつけた槍)を投げ合うダイナミックな「鳥毛ひねり」は、この祭礼一番の見せ場となっています。 |
鳥毛ひねり |
天狗の面を被った役など、個性豊かな面々が練り歩く道中では、「サイハラ」と呼ばれる両端に紙の飾りがついた竹の棒を用いた「太刀踊」が演じられます。二列に並んだ踊り手が向かい合い、サイハラと太刀を打ち合わせて踊るもので、歌と法螺貝が心地よく響き渡ります。高知県には、棒や太刀をはじめ、長刀や鎌などを用いる「花取踊」(はなとりおどり)が数多く伝わり、同系統の芸能として注目されます。 |
太刀踊り 鼻高(天狗) |
さらに、「お神楽」とよばれるセクションでは、狐や獅子といった動物や異形のモノたちが輪になって舞います。乱打される打楽器の音と、簡潔な旋律を繰り返す笛の音が混ざり合い、「聖なるもの」との交歓の風景が眼前に広がります。 |
「お神楽」の狐 |
行列の途中には、「油売り」という道化役が登場し、サイハラを売って歩いたり、コミカルな所作で笑いを起こしたりと、祭りの場を和ませます。子どもから大人まで、幅広い層に親しまれているこの祭礼は、さながら大空を舞う鳥毛のように、これからも人と人とをつないでいくでしょう。 |
「油売り」 |
伝統文化ポーラ賞を受賞した秋葉神社祭礼練り保存会は、現在でも受賞時と変わらず、「秋葉神社祭礼練りの伝承」を主導し、地域の振興を支えています。 注:祭礼の開催日等につきましては、別途ご確認ください。
◇高知県吾川郡仁淀川町 産業建設課 「秋葉まつり」 https://www.town.niyodogawa.lg.jp/life/life_dtl.php?hdnKey=776 |
2020年12月10日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も
活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを
目的として、顕彰を行ってまいりました。 本年で40回を迎えた「伝統文化ポーラ賞」。
この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。
第2回 伝統文化ポーラ賞 特賞 山村精と原始布・古代織保存会 「太布織物」 大友真希(染織文化研究家) |
木綿布が庶民に普及する以前、人々は山野に自生する草木の皮・茎・蔓などから繊維を取り出して糸をつくり、布を織っていました。これらの織物の総称を「太布(たふ)」(*注1)といいますが、現在は「原始布」「自然布」などと呼ばれることが多く、シナ布・芭蕉布・苧麻布・藤布・葛布・アットゥシなどがそれにあたります。 |
太布織物 |
大正12年山形県米沢市に生まれた山村精(まさし)さんは、米沢で織物商に携わるなか、昭和40年頃から日本の原始布・古代織の復元と生産の存続に取り組み始めました。戦後、合成繊維の普及と機械化の加速によって、手技による布づくりとその歴史が途絶えていくことに危機感をもったのが始まりです。山村さんは、山形県、新潟県、福島県などの山間集落を訪ね歩き、古くから織られていたシナ布・藤布・楮布などの原始布について話を聞いて回ります。そこで目にした女性たちがもつ技術の高さに感動し、布そのものの美しさにも魅了され、原始布の探究が生涯続くこととなりました。 |
地機(じばた)による織布 |
多くの山村では、林業や炭焼きなどの生業が成り立たたなくなり、成人男性は出稼ぎで家を不在にした時代です。山村さんは集落の女性たちと共に保存会を立ち上げ、技術指導や研究会を行いながら地域での生産を後押ししていきました。長年途絶えていた紙布・ぜんまい織・藤布などの復元にも力を注ぎ、失われかけていた様々な原始布が、次々と息を吹き返したのです。 |
原始布・古代織参考館内展示 |
女性たちにとって、布づくりの仕事は家庭を支える大事な収入源となりました。来る日も来る日も必死に糸づくりと機織りに励んだといいます。新潟県村上市山熊田の集落では、「山村さんの仕事のおかげで子供たちを大学に行かせることができた」と、40年以上が経過した今も、当時を思い出して語る女性が少なくありません(*注2)。 |
*注1:現代では、徳島県那賀町木頭で生産されている楮布を指して「太布」と呼ぶ場合が多い。 |
2020年11月25日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も
活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを
目的として、顕彰を行ってまいりました。 本年で40回を迎えた「伝統文化ポーラ賞」。
この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞を受賞された方々を随時ご紹介致します。
2020年11月10日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も
活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを
目的として、顕彰を行ってまいりました。 本年で40回を迎える「伝統文化ポーラ賞」。
この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞を受賞された方々を随時ご紹介致します。
第29回 伝統文化ポーラ賞 優秀賞 加藤 孝造 「瀬戸黒・志野・黄瀬戸の制作・伝承」 佐藤典克(陶芸作家) |
加藤孝造氏の陶芸への道は、昭和28年 岐阜県陶磁器試験場で、幸兵衛窯(こうべえがま)の礎を築いた五代目 加藤幸兵衛氏に陶芸の指導を受けたところから始まりました。その才能は多才で、翌年の第10回日展(日本美術展覧会)に洋画部門で初入選、この年の全国最年少入選となったほどです。 |
「瀬戸黒茶ワン」(せとくろちゃわん)
|
その後、昭和45年にまた大きな出会いが訪れます。その人こそ、志野をはじめ、黄瀬戸、瀬戸黒など桃山時代に開花した焼き物の美に魅せられ、その再現に取り組んだ重要無形文化財保持者、故荒川 豊蔵氏です。荒川氏は加藤氏の人生観を揺さ振り、陶芸のみならず人生の師と仰ぐほどの人物でした。 翌年、可児市久々利に穴窯と登窯を築き、以後手回し轆轤(ろくろ)や薪による焼成等の桃山陶芸技法による制作を自身のライフワークとしていきます。その作品は桃山の志野・瀬戸黒を原点に、その伝統を継承しながらも新しさを追究したもので、手になじみ易く落ち着いており、加藤氏の風貌を彷彿とさせます。 |
「黄瀬戸水指」(きせとみずさし)
|
平成7年、岐阜県重要無形文化財「志野・瀬戸黒」の保持者に認定。平成21年に伝統文化ポーラ賞 優秀賞を受賞、翌平成平成22年には「瀬戸黒」の国指定重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されました。 それまでの「瀬戸黒」保持者であった荒川豊蔵氏が1985(昭和60)年に死去し、重要無形文化財指定が解除されていたこともあり、加藤氏で「瀬戸黒」2人目の人間国宝となります。 |
「掛け流し瀬戸黒茶盌」(かけながしせとくろちゃわん) |
加藤氏は若手陶芸家を集い「風塾」を創設、塾生には美濃陶芸を代表する作家たちが名を連ね、後継者の育成にも尽力しています。その功績と貢献は多大で、84歳の現在も現役陶芸家として精力的に活躍しています。 |
◇画像提供:公益財団法人 日本工芸会 |
2020年10月05日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も
活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを
目的として、顕彰を行ってまいりました。 本年で40回を迎える「伝統文化ポーラ賞」。
この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。
第2回 伝統文化ポーラ賞 特賞 鈴木 寅重郎「越後上布」 大友真希(染織文化研究家) |
晩冬の晴れた日、真っ白な雪原に広がる越後上布の反物。雪と太陽光に当てて布を漂白する「雪晒し」は、越後に春を告げる風物詩となっています。越後上布とは、新潟県南魚沼・小千谷地域で生産されている麻織物のことで、薄くて軽い、涼やかな肌触りが特徴です。 |
雪晒し |
越後上布の原料には、福島県昭和村で生産された苧麻(ちょま)の繊維・青苧(あおそ)を使います。青苧を細かく裂いて撚(よ)り繋ぎ、細く均一な糸をつくります。糸の撚り掛け、糊付け、絣くびり、糸染め、整経などの工程の後、いざり機(地機)を用いて布を織ります。緯糸(よこいと)の撚りを強くして皺(しぼ)加工したものは「小千谷縮(おぢやちぢみ)」といい、越後上布とともに夏用の着物に人気の素材です。越後上布づくりは冬の作業が中心ですが、乾燥に弱く切れやすい苧麻糸の扱いには、雪がもたらす湿気と熟練した手技が欠かせません。
|
絣くびり
糸染め
いざり機(地機)による織布 |
江戸時代には幕府へ上納されるなど、上質な麻布として高く評価され、その生産は最盛期を迎えました。明治以降、機械化・洋装化が進むにつれて、生産高が減少。戦中・戦後にかけて途絶えつつあった越後上布づくりの技を守るべく、産地では生産者を中心に技術保存協会が設立され、昭和30年には小千谷縮とともに国の重要無形文化財に指定されました。
|
足踏み |
越後上布への並々ならない情熱とこだわりをもち、生涯にわたってその製作と技術保存に取り組んだのが鈴木寅重郎さんです。良質なからむしは、糸が細くても切れにくいことから、化学肥料を使わず堆肥での栽培を農家へ注文するなど、原料の品質をとことん追求したといわれています。その注文に必死に応えたのが、鈴木さんと共に、同年ポーラ賞を受賞した「からむし栽培」の五十嵐善蔵さんでした。 |
|
平成21年に「越後上布・小千谷縮」はユネスコ無形文化遺産に登録されました。現在、越後上布・小千谷縮布技術保存協会が中心となって製作を行い、受け継がれてきた技を次世代へ繋ぐべく、伝承者の育成にも力を注がれています。 |
|
2020年09月25日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も
活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを
目的として、顕彰を行ってまいりました。 本年で40回を迎える「伝統文化ポーラ賞」。
この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。
2020年09月10日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も
活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを
目的として、顕彰を行ってまいりました。 本年で40回を迎える「伝統文化ポーラ賞」。
この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞を受賞された方々を随時ご紹介致します。
第32回 伝統文化ポーラ賞 奨励賞 鈴木 徹「緑釉陶器の制作・継承」 佐藤典克(陶芸作家) |
鈴木 徹氏は昭和39年多治見市に生まれ、昭和62年龍谷大学文学部史学科卒業、翌年京都府陶工職業訓練校成形科を卒業した後、志野や織部など桃山時代に焼造された焼き物の伝統と歴史が残る岐阜県多治見市で作陶活動を展開しています。 |
緑釉花器 |
美濃焼の「織部」といえば誰もが耳にしたことがありますが、彼の作品に使われる緑色の釉薬を施した焼き物は、他と一線を隔しており、それは作者の意思、「織部という範疇では語ることができないような作品をつくりたい、美濃という地域を超えた仕事をしたい」と語る彼の想いにほかなりません。
|
「萌生」 |
父親が「志野」の重要無形文化財保持者、鈴木藏である彼は、父とどれだけ違うことがやれるかが大切だ、との思いから「緑釉」の追求を選んだといいます。工房の周りにはさまざまな樹木や草花、苔があり、その自然が表現の源泉であると徹氏は自身の事を振り返ります。作品は、泥刷毛目や櫛目、さらには胎(*注)の途中に稜線を入れ、釉薬の濃淡、色合いの違う緑釉を模様の強弱に応じて意識的に使い分け、深みが増すように計算されており、近年は荒々しさよりも造形と釉薬の繊細さが際立ちをみせ、新たな作域へと進化を続けてきています。
|
「萌生」 |
平成3年の日本伝統工芸展入選以来入選を重ね、平成24年に伝統文化ポーラ賞を、平成27年には、第62回日本伝統工芸展「NHK会長賞」受賞し、さらに日本陶磁協会賞をも受賞されました。 |
◇2020年9月23日より、「萌生Ⅱ」ー鈴木 徹 作陶展ーが日本橋三越本店本館6階 美術特選画廊にて開催されます。 詳細は下記URLをご覧ください。 |
2020年08月11日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も
活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを
目的として、顕彰を行ってまいりました。 本年で40回を迎える「伝統文化ポーラ賞」。
この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。
第2回 伝統文化ポーラ賞 特賞 五十嵐善蔵「からむし栽培」 大友真希(染織研究家) |
夏は緑に、冬は雪に覆われる自然豊かな山里・福島県奥会津の昭和村では、新潟県で織られている「越後上布・小千谷縮」の原材料となる「からむし」が生産されています。 からむしは、イラクサ科である苧麻(ちょま)の一種で、からむしの繊維でつくる布は、吸水性がよく乾きやすいため、夏の着物に広く使われてきました。 |
”からむし焼き” [焼畑] |
からむしの栽培は春から夏にかけて行われます。 |
刈り取り |
7月下旬から8月のお盆前にかけて、2メートルほどに成長したからむしを一本一本鎌で刈り取ります。刈り取ったからむしは、その日のうちに水に浸し一本ずつ皮を剥ぎます。剥ぎ取った皮をからむし引き(*注)し、取り出した繊維は2・3日乾燥させた後、100匁に結束され新潟の糸づくりの工程へと進みます。 注:専用の道具を使い、からむしの表皮を削いで繊維を取り出す作業 |
”からむし引き” [苧引き(おびき)ともいう] |
昭和村では、地域を支える大事な作物としてからむしの栽培が代々続いてきました。五十嵐善蔵さんも村に伝わるからむし栽培の智慧を繋いできた一人です。からむしの繊維には、「キラ」とよばれる青色を帯びた独特の光沢があります。質の良いからむしだからこそ生まれる「きらめき」。昭和村の自然の豊かさと、人々が培ってきた技が織り成す、からむし独自の風合いです。 |
からむしの繊維 |
""からむしの織物" |
福島県昭和村HP |
2020年07月27日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も
活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを
目的として、顕彰を行ってまいりました。 本年で40回を迎える「伝統文化ポーラ賞」。
この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。
第32回 伝統文化ポーラ賞 地域賞 数河獅子保存会「数河獅子の保存・伝承」 川﨑瑞穂(博士・神戸大学特別研究員) |
大きな口に愛らしい瞳。日本各地には、個性的な「獅子舞」が数多く伝わります。「ライオン」としての獅子が登場する芸能は海外でもみることができますが、日本では仏教における聖獣、ないし狩猟の対象としての「シシ」(鹿や猪)の舞として伝承されています。 日本の獅子舞は大きく「伎楽」(ぎがく)系と「風流」(ふりゅう)系に分けられます。 |
初段「曲獅子」 |
岐阜県飛騨市古川町の数河(すごう)という地域には、この二人立ちの獅子舞「数河獅子」(すごうしし)が伝わります。大宝年間(701〜704)、新羅の僧・隆観が、獅子の狂いたわむれる様子を舞にしたことに始まるとされ、別名「高麗獅子」(こまじし)とも呼ばれます。9月5日の白山神社(上数河)・松尾白山神社(下数河)の祭礼にて奉納されるこの芸能では、大きな顔の獅子頭にホロ幕を垂らし、その中に前足後足の2人の舞手が入り、「太神楽」(だいかぐら:伎楽獅子の一種)を象徴するアクロバティックな芸を披露します。 |
二段目「天狗獅子」 |
舞は「曲獅子」、「天狗獅子」、「金蔵獅子」という三つの演目(段)から成り、その中の「天狗獅子」では、獅子だけでなく天狗、猿、熊も登場。三者は獅子の周りを踊り、様々な所作を見せます。天狗が獅子によって倒され、再び起き上った天狗が獅子を倒すという、物語性豊かな演目になっています。 |
三段目「金蔵獅子 |
伝統文化ポーラ賞を受賞した数河獅子保存会は、現在でも受賞時と変わらず、「数河獅子の保存・伝承」を主導し、地域の振興を支えています。
注1:2020年度は、新型コロナウイルスの影響で、例年通りの祭りが開催されないことがあります。詳しくは公式HPをご確認ください。 |
一般社団法人飛騨市観光協会 |
2020年07月10日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も
活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを
目的として、顕彰を行ってまいりました。 本年で40回を迎える「伝統文化ポーラ賞」。
この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。
第1回 伝統文化ポーラ賞 大賞 平良敏子、喜如嘉の芭蕉布保存会「染織・芭蕉布」 大友真希(染織研究家) |
胸に心地よい風が吹き、空を思えば心晴れやかになる沖縄。その沖縄の風土に馴染む着物といえば、芭蕉布の着物を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。芭蕉布は、バナナと似た植物・糸芭蕉から取り出した繊維で糸をつくり織り上げた布です。自然な生成りの色合いに、張りと光沢をもった涼やかな風合いを特徴とします。 |
快晴に映える芭蕉畑 |
芭蕉布づくりでは、糸芭蕉の栽培にはじまり、糸芭蕉の伐採、繊維の採取、糸づくり、糸の染色、機織り、といった数々の工程と長い時間をかけ、一反の布が完成します(*注)。芭蕉布づくりの一連の仕事は、すべてが手作業によっておこなわれるため、どの工程にも、熟練の技と根気が欠かせません。 |
整経 |
沖縄本島の北部に位置する大宜味村喜如嘉は、芭蕉布づくりの盛んな地域で、村の女性たちは幼い頃から家の手伝いで糸づくりや機織りをしてきました。戦後、沖縄で途絶えつつあった芭蕉布づくりの息を吹き返させたのは、平良敏子さんを中心とする「喜如嘉の芭蕉布保存会」の女性たちでした。 |
”芭蕉布を織る” |
昭和30年頃を境に生活や慣習が大きく変わるなか、平良さんは喜如嘉の芭蕉布づくりの技を受け継ぎながら、工芸品としての作品制作と芭蕉布の普及にも力を尽くします。平良さんを指導者に、喜如嘉の女性たちの手が支えてきた芭蕉布の伝統は、伝統文化ポーラ賞の受賞から40年が経過したいまも、次の世代へと引き継がれています。 |
”多彩”な芭蕉布 |
喜如嘉の芭蕉布保存会 |
2020年06月25日
ツイート
映画解説 vol.25
※「うつわに託す 大西勲の髹漆」(2009年制作/35分)
▼映画紹介はこちら
▼無料貸出はこちら
2020年06月10日
ポーラ伝統文化振興財団では設立以来、わが国の貴重な伝統文化に貢献され、今後も
活躍が期待できる個人または団体に対し、更なる活躍と業績の向上を奨励することを
目的として、顕彰を行ってまいりました。 本年で40回を迎える「伝統文化ポーラ賞」。
この度、弊財団40年の軌跡と共に、過去ポーラ賞受賞された方々を随時ご紹介致します。
2020年05月25日
ツイート
映画解説 vol.24
※「蒔絵 室瀬和美 時を超える美」(2017年制作/39分)
▼映画紹介はこちら
▼無料貸出はこちら
2020年04月24日
ツイート
映画解説 vol.23
※人形作家 秋山信子 ─心やすらぐ人形を─」(2001年制作/39分)
▼映画紹介はこちら
▼無料貸出はこちら
2020年03月25日
ツイート
映画解説 vol.22
2020年03月10日
伝統芸能部門の映画解説では、三浦裕子先生(武蔵野大学文学部教授、同大学能楽資料センター長)に、
映画の見どころをご紹介いただきました。
今回はその総集編として、能楽、狂言、文楽に関する記録映画4作品についての連載を振り返ります。
映画解説(伝統芸能部門)vol.1 映画『狂言師・三宅藤九郎』~緻密な構成が語る狂言の神髄
[2019-10-10]
映画解説(伝統芸能部門)vol.2 映画『世阿弥の能』~世阿弥と能と歴史を重厚に華麗に描く
[2019-11-14]
映画解説(伝統芸能部門)vol.3 映画『狂言・野村万蔵-技とこころ-』~和楽の世界に遊ぶ
[2019-12-10]
映画解説(伝統芸能部門)vol.4 映画『文楽に生きる 吉田玉男』~歴史としての映画の価値
[2020-02-10]
※執筆者 三浦裕子先生(武蔵野大学文学部教授、同大学能楽資料センター長)
▼インタビュー記事はこちら
映画解説で取り上げた記録映画は、弊財団にてお貸出(無料)を行っております。一般のお客様がご視聴されたり、学校関係・美術館関係のご利用者様が授業や上映会(無料)でお使いになる場合もございます。ぜひお気軽にご利用くださいませ。
※伝統文化記録映画無料貸出はこちら
2020年02月21日
ツイート
映画解説 vol.21
※記録映画「木の生命よみがえる-川北良造の木工芸-」(1997年制作/34分)
▼映画紹介はこちら
▼無料貸出はこちら
2020年02月10日
映画解説 vol.4
※記録映画「文楽に生きる 吉田玉男」(1981年制作/36分)
▼映画紹介はこちら
▼無料貸出はこちら
※三浦先生による伝統芸能分野の映画解説は今回にて終了となります。
次回は総集編をお届けいたします。
※執筆者 三浦裕子先生(武蔵野大学文学部教授、同大学能楽資料センター長)
▼インタビュー記事はこちら
2020年01月27日
ツイート
映画解説 vol.20
※記録映画「磯井正美のわざ-蒟醤の美-」(1992年制作/40分)
▼映画紹介はこちら
▼無料貸出はこちら
2019年12月25日
ツイート
映画解説 vol.19
※記録映画「にんぎょう」(1992年制作/34分)
▼映画紹介はこちら
▼無料貸出はこちら
2019年12月10日
映画解説 vol.3
※記録映画「狂言・野村万蔵-技とこころ-」(1999年制作/50分)
▼映画紹介はこちら
▼無料貸出はこちら
※次回は「文楽に生きる 吉田玉男」をご紹介します。
※執筆者 三浦裕子先生(武蔵野大学文学部教授、同大学能楽資料センター長)
▼インタビュー記事はこちら
2019年11月25日
ツイート
映画解説 vol.18
映画『重要無形文化財 輪島塗に生きる』 「内」の美、「外」の美 |
|
中畑 邦夫 (博士 哲学) |
|
輪島塗の作品は私たちの生活の中でとてもポピュラーなものだ。皆さんのご家庭にも輪島塗の作品があるのではないだろうか。私たちは、輪島塗の作品を見る時、蒔絵、沈金といった技術によって施された美しい装飾に目を奪われがちである。たしかに、優美な装飾は輪島塗の大きな魅力だ。しかし、それと同時に、長期にわたる日常の使用に耐えることができる丈夫さもまた、輪島塗の特徴なのである。輪島塗の作品は完成するまでに数多くの工程を経る。細かい工程まで含めるとその数は124にもおよぶ。その工程は大きく分けると、「木地作り」、「下地」、「中塗り」、「上塗り」、「加飾」の5つである。蒔絵や沈金によって輪島塗特有の優美さを産み出すのは最後の「加飾」の工程である。つまり、輪島塗の優美さにかかわるのは全て行程の中のごく一部なのであり、それ以前の工程、特に「木地作り」や「下地」といった工程の結果は、完成された作品では目に見えない。しかし、もう一つの特徴である丈夫さは、このような目に見えない工程によって成り立っているのである。私は、今回の映画を観て輪島塗のこのような製作工程を初めて知り、表面上の美を支えるものの大切さについて大いに考えさせられた。 1986年(昭和61年)、輪島塗技術保存会は総会において、20世紀の最後を飾る事業として千年以上の保存を考えた作品の制作を決定した。選ばれた作品は懸盤一式。今回ご紹介する映画は、製作決定から足かけ5年にもおよぶ期間をかけて完成された「檜素地沈金蒔絵菊文懸盤一式」の製作過程を記録したものである。この映画の中でも特に注目していただきたいのは、どの工程においても、職人の繊細な感覚が発揮されている作業の様子である。職人たちは製作中の作品の出来具合を指先や手のひらで確認しつつ作業を進める。また、職人たちは製作のための道具を自作するのであるが、そのような道具はあたかも身体の延長であるかのように、職人たちの中にある作品のイメージを忠実に表現してゆく。輪島塗の製作過程では温度や湿度が作品の出来を大きく作用する。現代においては適切な温度や湿度を機械によって保つことができるのであるが、かつて職人たちは独特の感覚によって適切な温度や湿度を感じ取っていたのであろう。 ドイツの詩人であり思想家であったF・シラー(Johann Christoph Friedrich von Schiller、1759年~1805年)は、人間の美しさに関して次のような言葉を残している。「外見上の美しさは、内面の美しさを示す兆候である」。このことは、輪島塗の作品にも当てはまる。輪島塗の作品の表面上の美しさは、職人の繊細な感覚によって丁寧に作られた目に見えない部分の上に成り立っている。美しさの本質について考える時、伝統工芸の作品とその製作過程は、私たちに多くのヒントを与えてくれるのである。 |
|
職人が自作した道具の数々 |
|
製作には繊細な感覚が必要とされる |
|
|
|
※写真は、すべてポーラ伝統文化振興財団による撮影 |
|
※記録映画「重要無形文化財 輪島塗に生きる」(1990年制作/34分)
▼映画紹介はこちら
▼無料貸出はこちら
2019年11月14日
映画解説 vol.2
※記録映画「世阿弥の能」(1990年制作/49分)
▼映画紹介はこちら
▼無料貸出はこちら
※次回は「狂言・野村万蔵-技とこころ-」をご紹介します。
※執筆者 三浦裕子先生(武蔵野大学文学部教授、同大学能楽資料センター長)
▼インタビュー記事はこちら
2019年10月25日
ツイート
映画解説 vol.17
※記録映画「伝統の技と心 竹工芸 飯塚小玕斎」(1986年制作/30分)
▼映画紹介はこちら
▼無料貸出はこちら
2019年10月10日
映画解説 vol.1
※記録映画「狂言師・三宅藤九郎」(1984年制作/32分)
▼映画紹介はこちら
▼無料貸出はこちら
※次回は11月11日、「世阿弥の能」をご紹介します。
※執筆者 三浦裕子先生(武蔵野大学文学部教授、同大学能楽資料センター長)
▼インタビュー記事はこちら
2019年09月25日
ツイート
映画解説 vol.16
※記録映画「伝統の技と心 西出大三 截金の美」(1986年制作/30分)
▼映画紹介はこちら
▼無料貸出はこちら
2019年09月10日
【映画解説(伝統芸能部門)講師のご紹介】映画解説では、弊財団が制作した記録映画に
ついて、各分野の専門家にご寄稿いただき、
映画の見どころやを背景知識などを読者の
皆さまにお届けしております。
来月10月からは、三浦裕子先生を講師にお迎え
し、これまでご紹介してこなかった伝統芸能
分野の映画解説を連載いたします。
三浦先生は能・狂言がご専門で、武蔵野大学
で教鞭を執られるほか、武蔵野大学能楽資料
センター長も務められています。能・狂言をわかりやすく解説した入門書のご執筆や、
能・狂言の楽しみ方や魅力を伝えるイベントへのご出演など、幅広いご活動を展開して、
普及に尽力されています。
今回は、連載に先立ちまして、三浦先生にお話をうかがいました。
三浦先生の映画解説の初回は、10月10日を予定しております。
どうぞご期待くださいませ。
...
財団:伝統芸能の魅力について教えてください
三浦先生:
一口に伝統芸能と言っても、平安時代の雅楽から江戸時代の人形浄瑠璃文楽・
歌舞伎まで、多種多様なものがあります。私が専門としている能・狂言(能楽)
に引き付けてその魅力を考えると、音楽・舞踊・演劇・美術といった諸要素が
高度に洗練され、それが不可分に結び付いた総合芸術であることがあげられると
思います。室町時代に基礎を築きましたので、先行芸能である雅楽・声明などの
影響を受け、後代芸能の人形浄瑠璃文楽・歌舞伎に影響を与えた点など、芸能史
の流れのなかでちょうどよい立ち位置にあるのも興味深いところです。
財団:三浦先生のご専門・現在の興味関心について教えてください
三浦先生:
現在は、近代の能・狂言について強い関心を抱いています。それは、初世梅若実
(1828~1909)(現在の四世梅若実氏[シテ方観世流能楽師・日本芸術院会員・人
間国宝]の曽祖父)が幕末から明治末期までの60年間にわたって綴った日記『梅若
実日記』の刊行に際して編集委員として携わったことがきっかけです。この『日記』
を通じて、明治維新の動乱期に能・狂言の役者がどのように困難を克服したのかを
知り、当時と現代の能・狂言との違いを意識するようになりました。芸能は人間の
身体を通じて伝承されていくものですから、当然、変化を伴うものです。どのよう
に変化するのか、それに時代がどうかかわってくるのかなどを、総合的視野をもっ
て考えていきたいと思っています。
財団:当財団の伝統文化記録映画についてコメントをお願いします
三浦先生:
伝統文化を記録する映画を長年にわたり制作し、映写会などを通じて公開して
いるポーラ伝統文化振興財団の活動は非常に有意義なものと思います。学生時代
(四半世紀以上前になります)、能・狂言を勉強したいと思いつつも、どうアプ
ローチすればよいのかわからず、そのような折に「狂言師・三宅藤九郎」の映写
会に行った記憶があります。今となっては懐かしい思い出ですが、私を能・狂言
の世界に導いて下さった一つの機会となったものでした。
財団が制作した伝統芸能の映画は4本あります。伝統工芸26本、民俗芸能18本に
比べると少ないものの、4本のうち能1本、狂言2本、文楽1本と、ほとんどが能・
狂言であることが私にとっては大変心強いことです。来月から、これらの映画の
魅力を沢山ご紹介していきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
■執筆者 三浦 裕子(みうら ひろこ)
<経歴>
武蔵野大学文学部教授、同大学能楽資料センター長。
東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学大学院音楽研究科修士課程修了。
武蔵野女子大学(現在の武蔵野大学)能楽資料センター助手、
同大学文学部講師を経て現職。
<受賞歴>
名古屋文化振興賞[評論の部]受賞。
<おもな著書・共著>
『はじめての音楽史』(共著。音楽之友社、1996年)
『能・狂言の音楽入門』(音楽之友社、1999年)
『初めての能・狂言』(ショトル・シリーズ、小学館、1999年)
『梅若実日記』(梅若実日記刊行会・編集委員。監修=梅若六郎・鳥越文蔵、全7冊、
2002年~2003年、八木書店)
『面からたどる能楽百一番』(淡交社、2004年)
『日本音楽基本用語辞典』(共著。音楽之友社、2007年)
『能・狂言』(学校で教えない教科書シリーズ、日本文芸社、2010年)
2019年07月25日
ツイート
映画解説 vol.15
※記録映画「加賀象嵌 中川衛 美の世界 ―新たな伝統を創る―」(2011年制作/39分)
▼映画紹介はこちら
▼無料貸出はこちら
2019年07月10日
今年5月まで連載してきた民俗芸能の映画解説では、全18作品について
川﨑瑞穂先生(神戸大学・日本学術振興会特別研究員PD)にご執筆いただきました。
本連載では、各地に伝わる祭りの魅力や楽しみ方を、川﨑先生の実体験や
先生ならではの視点から教えていただいておりました。
今回はその総集編②として、2018年8月から2019年5月までの映画解説を振り返ります。
ご高覧下さいませ。
2018年8月10日
映画解説vol.10 他者の顔と交わる夜 映画『端縫いのゆめ―西馬音内盆踊り―』
2018年9月10日
映画解説vol.11 人形という多様体 映画『ふるさとからくり風土記ー八女福島の燈籠人形ー』
2018年10月10日
映画解説vol.12 君が望む君は誰が望む君? ―映画『われは水軍―松山・興居島の船踊り―』
2018年11月12日
映画解説vol.13 花祭り、下から見るか?横から見るか?―映画『舞うがごとく 翔ぶがごとく―奥三河の花祭り―』
2019年1月5日
映画解説vol.14 身代わりの鬼―映画『国東の修正鬼会―鬼さまが訪れる夜―』
2019年2月12日
映画解説vol.15 祭礼の部分的つながり―映画『月と大綱引き』
2019年3月11日
映画解説vol.16 人形と身体―映画『伊那人形芝居―明日へつなぐ伝承のチカラ―』―
2019年4月10日
映画解説vol.17 まだ会ったことのない音を、探してみる-映画『飛騨古川祭』
2019年5月10日
映画解説vol.18 模型の戦略―映画『ねぶた祭り―津軽びとの夏―』
【執筆者 川﨑 瑞穂先生の紹介】
2017年10月10日
【映画解説(民俗部門)講師のご紹介】
・映画解説(民俗芸能)総集編①はこちら
https://polaculture.weblogs.jp/blog/2019/06/minnzokugeinou.html
※伝統文化記録映画の無料貸出はこちら
http://www.polaculture.or.jp/movie/rental.html
2019年06月25日
ツイート
映画解説 vol.14
※記録映画「鍛金・関谷四郎 -あしたをはぐくむ-」(1983年制作/30分)
▼映画紹介はこちら
▼無料貸出はこちら