実は、8月6日から20日は、杉沢地区のお盆の期間に相当します。つまり、杉沢比山は、お盆に関連した宗教儀礼なのです。人は日常生活から、ある一定の時間を切り離すことで、聖なる祭りの期間を作ります。お盆もしかり。迎え火や送り火は、「火を焚く」という行為によって、非日常的時間を作り出すための行為です。 比山の上演日のうち初日の6日は、「仕組み」と呼ばれ、祭りの期間の幕開けを意味します。20日は「神送り」といい、死者の魂が、杉沢地区を離れる日です。
「盆」というコンセプトの背景には、生者の生きる「この世」と死者の住まう「あの世」の区別があります。普段は、両者の住み分けがなされていますが、この期間にのみ、二つの世界の境界があいまいとなり、両者が共存できるのです。日本の伝統的な信仰は、アニミズムです。自然界のあらゆるものには魂が宿っている、という考え方です。我々人間も、自然界の生き物です。そう考えると、死者の魂もまた超自然的存在、つまり「神」の一部であると解釈できます。
しかし、ここに矛盾が生じます。神楽は、神道儀礼であり、お盆は古来の祖先信仰と仏教とが結びついた行事とされているからです。明治初期の神仏分離令を思い出すと、なる程、これらが混ざり合っていても不思議ではありません。(写真➃ 舞台裏から見た猩々(二人の謡担当が幕をあげて舞人を迎える)) |