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お知らせ

2018年11月20日

 

 

 (写真① 杉沢比山舞台)
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 山形県飽海郡遊佐町杉沢には、「杉沢比山番楽」という舞が継承されています。番楽とは、東北地方日本海側に見られる、武士の武勇譚をテーマにした演目の多い神楽のことです。(写真② エンターテイメント性の高い演目の一例(蕨折り)、道化役によるお福撒き)

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 さて、杉沢比山は、毎年8月6・15・20日の3回上演されます。 14の舞のレパートリーのうち、儀礼的意味合いを持つ演目は3日間全てで舞います。エンターテイメント性の高いものは一部を選択します。3回のうち、8月15日は内容盛りだくさんです。 獅子舞や供物を上納する儀式に続いて、舞の上演がされます。この日は、全演目を舞うことになっています。それ以外は、3日間ともほぼ同じ内容になります。 単純に同じような内容で3回公演すればいいだけならば、いつでもいいはずです。けれども、日取りは固定されています。少し不思議に思われませんか?一体、なぜ8月の6・15・20日なのでしょう。(写真③ エンターテイメント性の高い演目の一例「蕨折り」)
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 実は、8月6日から20日は、杉沢地区のお盆の期間に相当します。つまり、杉沢比山は、お盆に関連した宗教儀礼なのです。人は日常生活から、ある一定の時間を切り離すことで、聖なる祭りの期間を作ります。お盆もしかり。迎え火や送り火は、「火を焚く」という行為によって、非日常的時間を作り出すための行為です。 比山の上演日のうち初日の6日は、「仕組み」と呼ばれ、祭りの期間の幕開けを意味します。20日は「神送り」といい、死者の魂が、杉沢地区を離れる日です。 

 「盆」というコンセプトの背景には、生者の生きる「この世」と死者の住まう「あの世」の区別があります。普段は、両者の住み分けがなされていますが、この期間にのみ、二つの世界の境界があいまいとなり、両者が共存できるのです。日本の伝統的な信仰は、アニミズムです。自然界のあらゆるものには魂が宿っている、という考え方です。我々人間も、自然界の生き物です。そう考えると、死者の魂もまた超自然的存在、つまり「神」の一部であると解釈できます。

 しかし、ここに矛盾が生じます。神楽は、神道儀礼であり、お盆は古来の祖先信仰と仏教とが結びついた行事とされているからです。明治初期の神仏分離令を思い出すと、なる程、これらが混ざり合っていても不思議ではありません。(写真➃ 舞台裏から見た猩々(二人の謡担当が幕をあげて舞人を迎える))
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 さらに掘り下げてみましょう。杉沢比山の最後の演目は、「猩々」という空想上の動物の舞です。赤い着物を身にまとい、猩々に扮した舞人が、演目の最後に刀を加えながら、逆立ちをして舞台を3周します。成功した年は、豊作になると言い伝えられています。 仏教的死生観とは異なる、「神(となった死者)が、現在を生きる者に具体的な利益をもたらす」という、日本人のアニミズム的死生観を見てとれるイベントです。このように杉沢比山には、日本の伝統的な信仰のあり方が、今尚残されているのです。

平井暁子

お茶の水女子大学文教育学部を経て、同大学院人間文化研究科博士前期課程修了。パリ・ソルボンヌ大学 にて音楽学修士号取得。2015年度・16年度同大学非常勤講師。現在、同大学第5博士学院在学及びIReMus研究員。
専門は民族音楽学。神楽紹介サイト運営中(www.akikohirai.com)。

 

 



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