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お知らせ

2018年08月16日

獅子舞や神楽といった民俗芸能は現在、都市化・少子高齢化などが原因となり、多くところで担い手不足・後継者不足の声が聞かれます。奈良県下の風流(ふりゅう)系太鼓踊りと呼ばれる民俗芸能もその一つです。奈良県の太鼓踊りは、担い手不足により伝承が危ぶまれたり、途絶えている太鼓踊りがありました。しかし行政や地元の小学校の協力によって、これまでの伝承方法から新たな伝承方法に変え、伝承を継続することに成功しました。ここではどのように伝承されているのか、具体的に見てゆきます。

  篠原踊りの伝承用映像(下のテロップは歌詞と太鼓のリズム)

奈良県五條市大塔町(おおとうとうちょう)篠原に伝わる篠原踊りでは、平成20年より様々な理由が重なり、伝承が厳しくなりました。そこで今後の伝承は篠原住民だけでは難しいため、平成26年に奈良県教育委員会が主導して、篠原踊りの担い手を奈良県内外より公募で集めることになりました。民俗芸能というのはその地域に根付いた芸能であるため、その地域の人々だけで演じ、伝承するのが通例です。そのため公募で担い手を募るのは非常に斬新な方法でした。その結果、篠原の住民・篠原の出身者だけでなく、奈良県内や大阪から初めて篠原踊りを習いたいという人々が集まり、「篠原おどり保存会」という保存会の規約を改訂して新たな伝承組織を再発足させ、伝承を再開することが出来ました。

それだけではありません。篠原おどり保存会では、現在の長老が踊れる演目を全て記録しようと考え、奈良県教育委員会と共に、記録用の映像を作成しました。全演目のうち、特に篠原の氏神である神社で毎年1月に踊られる3曲は記録だけではなく、今後この映像を見て練習ができるような伝承用映像を作成しました。写真のように画面の下に太鼓のリズム譜と歌詞をつけ、カラオケのように太鼓を打つ箇所・歌う歌詞の箇所になると色が変わるようになっています。この映像を見れば一人でも練習ができるのです。このように篠原踊りは奈良県教育委員会と上手に協力しながら、伝承方法を刷新し、伝承を続けています。

  篠原踊りの練習風景

一方では、同じ奈良県下の太鼓踊りでも全く異なるアプローチから伝承の方法を変えたところがあります。奈良市都祁(つげ)吐山(はやま)に伝わる吐山の太鼓踊りでは、担い手不足の問題を解決するため、平成6年より地元の吐山小学校の郷土学習の時間に吐山の太鼓踊りの指導を取り入れました(現在は小学校の統廃合により都祁小学校に変更)。小学生や吐山小学校を卒業した中学生から担い手を募りました。平成20年からは放課後子供教室のひとつとして太鼓踊りクラブが結成され、11月23日におこなわれる秋の例祭にて奉納することが定着しました。現在では小学校を卒業した中学生も練習に加わり、今では吐山の太鼓踊りの担い手に欠かせない存在になっています。

  吐山の太鼓踊りの練習風景

吐山の太鼓踊りの練習ではこれまで「天―天―天ツク天」といった唱歌(しょうが)を使って太鼓のリズムや打ち方を習得していました。しかし小学生・中学生の練習では、吐山小学校の元音楽教員が、より子供たちに分かりやすく教える工夫として自作の太鼓リズム譜を使用し、指導に当たっています。吐山の太鼓踊りでも従来の担い手の構成から小学生・中学生参入するという大きな決断をし、また練習方法も子供向けに創意工夫することにより、伝承をつないでいます。

このように、現在の民俗芸能の伝承は構成メンバーや伝承手段等を変えることにより、受けつないでいこうとしています。しかしこのような伝承の変化は今に始まったことではありません。これまでの太鼓踊りの資料や映像記録をみると、過去の担い手もその時代の状況に合わせ、伝承を工夫してきたことが分かります。民俗芸能は常にその時代の流れや人々によって工夫して変化させつつ、伝承しているのです。

荒木真歩

 京都市立芸術大学音楽学部音楽学専攻卒業。神戸大学大学院国際文化学研究科文化人類学コース博士前期課程に在籍。専門は音楽学、文化人類学。

  現在、民俗芸能の調査を奈良県全域と宮城県気仙沼市にておこなっている。また奈良県の文化財行政のもとで、報告書の執筆・採譜・伝承用映像制作に携わっている。

 


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