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お知らせ

2018年05月20日

宮崎は神楽の宝庫である。日本の神楽を代表する高千穂や椎葉といったところでは今も頑なに女人禁制を守るところが多い。修験系の神楽において、女人禁制はつきものなのだが、九州全域に目を移すと、長崎県対馬の命婦舞、五島列島の市舞などは、巫女神楽が主流となっている。 それでは、宮崎の神楽に巫女神楽がなかったのかと言えば、そうではない。近世に巫女舞が舞われた記録は祓川の神舞(高原町)にも認めることができる。
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今ではどこでも伝統芸能の後継者不足に悩まされている。山間へき地は過疎化に伴う人口減少で舞手そのものがいなくなっているのが問題なのだが、都市部においてはまた、別の要因が存在している。それは、旧集落と振興住宅地との関係である。宮崎市内では30近い地区で、春神楽が伝承され、山間部に比して勝るとも劣らない内容豊富な舞が伝承されている。ところが、見学者も少なければ伝承者も厳しいのが実状だ。その理由を探って調査したところ、地元の祭りに参拝するのではなく、イベントの神楽に足を向ける方が多いことがわかった。理由は、「よそものが、神社の氏子さんのお祭りに入るのは遠慮したほうが良い」「イベントなら気兼ねなく楽しむことができる」というものだった。神楽伝承の地元からは「近くに住んでいても神社に参りにきてくれない」「新たな転入者は神楽を好きな人がすくない」という声があがり、両者の意思疎通が残念なことになされていないことが判明した。
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つい先日訪れた、長崎県五島市福江の住吉神社の神楽で、興味深い事例を見つけた。なんと、ほとんどが子供たちだけで、荒平・獅子舞など様々な舞が男女の別なく立派に舞われて伝承されているのだ。しかも、笛や太鼓などの楽器も4歳から小学生が主体で、中高生も混じっている。子供たちに神楽を教えているのは、宮司の奥様やご家族の方々。小学校にお願いして、氏子圏外からも希望者を募っているという。宮司曰く「神楽はアマテラスの御代より女性が舞っていたもの。女人禁制などあってはならない」と・・・。

つい最近、大相撲で女性が土俵に上がることの是非が取り沙汰されたばかりだが、日本の伝統とされる「女人禁制」について、どこまで正確な情報を国民は有しているのだろうか?

女人禁制を解けば、神楽の伝承者は必然的に倍増するのに・・・

 離島での神楽の伝承は別の意味でも深刻だ。それは、大学進学・就職で若者のほとんどが島離れを余儀なくされるからだ。そこで生まれた知恵が、氏子圏内外を問わず、幼児から小中高校生までを集め、子供たち主体の神楽を作り上げたことだ。

子供たちの世界に、地元民・転入者の区別はあまり存在しない。幼稚園・小学校などの交友関係で文化伝承の輪を自然と広げていくことが可能となる。

 実は、昨年9月、緊迫する半島情勢の最中、韓国から海の神を祭るイベントに招聘され、同神社の最年少4歳の女児を含む巫女さん4名を引率することができた。常に新しい仲間を求めて、神楽を舞い続ける島の女性たちの芯の強さを垣間見る思いがした。

永松 敦

1958年 大阪府生まれ

総合研究大学院大学文化科学研究科博士後期課程修了
博士(学術)
専門:狩猟民俗・民俗芸能 在来野菜
現在、宮崎公立大学人文学部教授(民俗学)

最近は民俗知を活かした地域創生を実践しており、宮崎市の地域のお宝発掘・発展・発信事業において、大宮地域自治区の景清伝説・神楽・在来野菜・自然などを活用して地域づくりに従事している。

著書 

『狩猟民俗研究―近世猟師の実像と伝承―』(平成15年)法蔵館
『九州の民俗芸能(海と山と里と交流と展開の諸相)』(平成21年)鉱脈社     ほか

 


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