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2018年03月10日

映画解説 vol.6

曳山、あるいは東西文化のタペストリー

映画『―琵琶湖・長浜―曳山まつり』

  川﨑 瑞穂(国立音楽大学助手)

①曳山全体像

祇園祭、高山祭に続く「日本三大曳山祭」の一席、ここに長浜曳山祭と秩父夜祭のどちらを入れるかは意見が分かれる。どちらもユネスコの無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」に名を連ねる甲乙つけがたい祭礼であると、ここでは軟着陸しておこう。今回紹介する映画『―琵琶湖・長浜―曳山まつり』は、前者を題材とした記録映画であり、特に子ども達によって演じられる「こども歌舞伎」を、稽古から本番まで描き出している。歌舞伎といえば、後者の秩父夜祭も負けず劣らず有名であるが、映画『秩父の夜祭り―山波の音が聞こえる―』と本作を見比べて、どちらを三大曳山に入れるかを密かに考えるのは、観る者に許された自由であろう。

 

琵琶湖の北、滋賀県長浜市で毎年4月9~16日にかけて開催されるこの祭礼は、町衆の内、「子ども役者」「若衆」「中老」という三つの異なる世代が行う祭礼である。町衆が集まって祭礼の相談をする場面に続いて、曳山の絵画や、セピア色の古写真が多数映し出される。春休みになると、子ども役者の稽古がはじまる。役者には幼稚園児もおり、振付の先生から指導をうける彼らの後ろでは、若衆がサポートをする。稽古で「チリカラスッタータッポッポ」といった不思議な声を出しているが、これは三味線の「チントンシャン」のような、音楽を覚えるための「唱歌(しょうが)」という歌である。曳山祭の歌舞伎は「義太夫節」という三味線音楽の伴奏で演じられるが、義太夫節の映像に、なぜかバロック音楽、すなわちバッハやヘンデルといった作曲家に代表される時代の西洋音楽が合わされる。本作ではバロック音楽やルネサンス音楽が度々登場し、曳山の曳行(えいこう)のシーンでは、なんと祭り囃子や掛け声に重ねあわされている。なぜだろうか。

 

ヒントは随所に示されている。16世紀末に遡るとされるこの祭礼では、曳山に舶来のタペストリー(織物)が飾られているが、これは祇園祭と同じく、町衆が財をなげうって買い求めたものである。また本作冒頭では、鉄砲をはじめて造った工業の町として長浜が紹介されているが、「鉄砲」や「織物」といった長浜を象徴する外来文化の流入期は、およそ西洋音楽史のルネサンス(15~16世紀)からバロック(17~18世紀半ば)にかけての時代にあたっている。本作を観る者は、曳山とタペストリーという視覚だけではなく、聴覚によっても同時代の文化のコントラストを楽しむことができるのである。

 

曳山は長浜八幡宮に集まり、いよいよ「狂言奉納」となる。子ども役者の演技とそれを熱心にみる大人たち。ナレーションでは、町衆が創り出した趣向として歌舞伎が紹介されているが、歌舞伎もまた時を同じくして生まれ、江戸期を通じて発展した芸能である。ヨーロッパの織物を飾り、歌舞伎を載せた曳山のごとく、およそ文化というものは何らかの「他なるもの」の集合体である。それは舶来のタペストリーよろしく、様々な種類の糸で織られた織物であり、本作はその東西文化の綴織(つづれおり)を、映像と音楽の組み合せによって巧みに表現している。バロック音楽の「通奏低音」のように本作と曳山祭を貫流する異種混淆性、「文化のオリジナルとは何か」という問いが、そこからかすかに聴こえてくる。

長浜の古い町並みと曳山

②子ども歌舞伎の練習風景

子ども歌舞伎の練習風景

鳳凰山-002()

鳳凰山の見送り幕(タペストリー)
※写真提供: 長浜市曳山博物館

④子ども歌舞伎の上演風景

子ども歌舞伎の上演風景
※クレジットのない写真は、ポーラ伝統文化振興財団による撮影


0064_001記録映画「-琵琶湖・長浜-曳山まつり」(1985年制作/32分)
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※長浜曳山祭の詳細は、機関誌「伝統と文化」40号をご覧下さい。
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※次回は4月10日、「炎が舞う-那智の火祭り-」をご紹介します。


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