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お知らせ

2018年01月25日

これまで毎月10日に民俗芸能の映画解説をお届けしてまいりましたが、今月から
毎月25日に伝統工芸の映画解説もスタートいたします。

工芸部門の映画解説は、毎月25日の公開で、まずは染織関係の映画6作品につ
いて、染織文化研究家の大友真希先生に解説していただきます。ぜひご覧下さい。


映画解説(工芸部門) vol.1

わざと心を受け継ぐ織物

−映画『芭蕉布を織る女たち−連帯の手わざ−』−

  大友 真希(染織文化研究家)

芭蕉布1

張りがあって風通しの良い風合いをもつ芭蕉布は、琉球の風土にあう着物の素材としてかつて広く用いられた織物である。沖縄県大宜味村喜如嘉(おおぎみそんきじょか)では、自家用に織っていた芭蕉布を明治後期から地場産業に発展させ、昭和前期までその発展が続いた。戦後、衣料の急変などで生産が衰微していたが、平良敏子(たいらとしこ・大正10年生)さんを中心とした集落の女性たちによって喜如嘉の芭蕉布は再興した。昭和30年頃を境に古くからの慣習・生活も大きく変わっていくなか、長年地域に伝わる芭蕉布の発展と継承にすべての力を尽くしてきたのが平良さんである。平良さんを指導者に、芭蕉布づくりに励む女性たちのその技術と生み出される芭蕉布は、昭和47年に沖縄本土復帰の後、県の無形文化財に指定された。また、国の重要無形文化財に指定(昭和49年)、第1回伝統文化ポーラ大賞受賞(昭和56年)など、日本の伝統染織として高く評価されていったのである。

本映画では、原木栽培から織物の完成に至るまでの全行程を追いながら、喜如嘉の女性たちが連帯と共同の力で守り続けてきた芭蕉布づくりの様子が克明に記録・紹介されている。芭蕉布ができあがるまでには何十もの工程があり、その一連の作業は単純かつ複雑でありながら、すべてが手仕事でおこなわれている。どの仕事も技術と根気を要するのだが、こうした芭蕉布づくりは喜如嘉に暮らす女性たちの「連帯の手わざ」によって支えられてきた。

芭蕉布の原木・糸芭蕉の伐採にはじまり、皮から繊維を取り出し、繊維を績(う)んで糸にする。糸づくりはもっとも大変で時間のかかる仕事である。単調な手仕事の繰り返しなのだが、布を織るための糸となるには大量かつしっかりと績まれたものでなければならず、それには熟練した技が欠かせない。そのため、糸づくりは年配女性たちが頼りとなるのだ。それは絣糸(かすりいと)をつくる仕事も同じであり、糸を括る彼女たちの指の動きは確実で巧みである。平良さんは、こうした芭蕉布づくりの先輩方に対し、敬意と感謝の気持ちをもちながら日々仕事に努めていることが全編を通して伝わってくる。個人としての作家性を持たず、地域性を重んじた共同体による手仕事を貫くことで、芭蕉布の美しさが保たれてきたのだと思わずにはいられない。

12月から翌2月にかけて、喜如嘉の女性たちは苧倒し(うーだおし・糸芭蕉の伐採)から苧引き(うーびき・糸芭蕉から繊維を採取)の仕事に追われる。芭蕉布に適した良質な繊維を取れるのがこの季節だからだ。以前、喜如嘉の工房を訪れたとき、若い研修生たちが黙々と仕事をする傍ら、ただ静かに芭蕉糸を績む平良さんの姿があった。本映画の撮影から四十年近く経過したいまも、平良さんが芭蕉布の先人たちから引き継いだ「わざと心」はしっかりと生きている。


糸芭蕉の茎から皮を剥ぐ(苧剥ぎ)

芭蕉布2

繊維を績んで糸をつくる(苧績み)

芭蕉布3

織りあがった芭蕉布を干す平良敏子さん

芭蕉布4

若い世代へとわざが受け継がれていく

※今回掲載した写真は、ポーラ伝統文化振興財団による撮影

 
Basyouhu※記録映画「芭蕉布を織る女たち-連帯の手わざ-」(1981年製作/30分)
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※次回は2月25日、記録映画「芹沢銈介の美の世界」をご紹介します。


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