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2017年11月15日

【伝統文化を支える表具師】

 日本の伝統的な住宅様式である床の間を構成する要素の一つに、掛軸という調度品があります。掛軸は、紙漉き職人や機織り職人によって作られた和紙や絹に書家や絵師が作品を描いて、それらにさまざまな色や模様のある絹織物を組み合わせてできたものです。この掛軸を作るのが表具師と呼ばれる職人です。
今日は日本の伝統文化を支えてきた表具師について話をしていくことにしましょう。

 「伝統文化を支えてきた」ということは、古くから存在していたことになりますが、表具師はいつごろから日本の歴史上に登場してくるのでしょうか。一般的には、鎌倉時代から室町時代にかけて発展してきた床の間という文化と茶の湯の流行の時期に現れて、徐々にその存在がクローズアップされていきます。
特に日本文化の発展に影響を与えた江戸時代では、掛軸以外の仕事もこなすようになっていきました。衝立や屏風の作成といった王道の仕事から、本の表紙の作成や装丁、暦や地図の作成、時には指物や鋳物の修理、入れ歯をつくるといった変わり種の仕事まで、培ってきた技術や手先の器用さを活かした「なんでも修理屋さん」として幅広く仕事をしていました。
お店でこなす仕事以外では、年末年始になると武家や大きな商家に出掛けて、障子や襖、壁紙などの張替えを行う内装屋さんとしても活躍しました。現在、街で見かける表具屋さんもこの時と同じように内装屋さんの仕事をしていますが、それは江戸時代からの名残といえるでしょう。

 さて、表具師が仕事をする上で必要なもので、掛軸を作る技術の他に材料や道具があります。和紙、糊、糊盆、刷毛、甕などがあげられますが、これらの道具は江戸時代以前に作られた職人を描いた絵にも登場します。昔から変わらない材料や道具を使って、表具師は今日まで仕事を続けているのです。
しかし、この道具は表具師自らが作るわけではなく、和紙は紙漉き職人、刷毛は刷毛職人といった具合に、材料や道具を作る職人も存在します。つまり、掛軸一つを作るだけでも様々な職人が関わっているのです。このようにして出来上がる掛軸は、まさに職人の粋を結集した作品、とでもいえるでしょうか。

 長い年月をかけて研鑽を積み、様々な職人が作った材料や道具とともに試行錯誤しながら発展させてきた表具師の「つくる」という技術は、今、文化財修理の現場で「なおす」技術として活かされています。
特に昨今の科学技術を取り入れた技術の発展は目を見張るものがあります。文化財を修理する技術者もまた表具師と同じようにさらなる高みを目指し、日々努力を重ねているのです。日本の伝統文化に与えた表具師の存在は、現在においてもなお、伝統文化を支える存在であることはお分かりいただけたでしょうか。

 

 

  図6 人倫訓蒙図彙 表具師アップ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Hirata 裏打ち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平田 茉莉子

2013年3月に神奈川大学大学院博士前期課程修了。2013年4月より神奈川大学大学院博士後期課程に在学。経師、表具師の研究をしながら、2014年から2年間杉並区教育委員会文化財係にて学芸員を務め、2016年より国立公文書館修復係に修復専門員として勤務。

 


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